2012/08/06

2012/07/09

【文献】国立大学附属病院におけるGRM業務への医師・歯科医師参画の現状

【ソース】
南須原康行(北海道大学病院医療安全管理部)ら:国立大学附属病院におけるGRM業務への医師・歯科医師参画の現状 -医師GRMアンケートの結果より-.医療の質・安全学会誌7:133-141,2012.

【概要】

○2010年7月に、国立大学附属病院医療安全管理協議会所属施設42大学45病院に、GRMとして活動する医師・歯科医師(専従、選任、兼任問わず)を対象としてアンケート調査を実施。41病院より回答。

○医師GRMを配置する病院は41病院中22病院(53.7%)・27名。専従(医療安全管理業務割合80%以上) 10名、専任(同50%以上)7名、兼任(同50%未満。輪番制の病院は1名とカウント)10名。

○看護職GRMは全病院に配置されており、13病院では2名の看護師が配置されていた。

○薬剤師GRMは5病院で各1名ずつが配置されていた。

○医師GRM27名に対する意識調査結果(抜粋)
 ・医師GRMが必要と思う:23名、思わない:0名
 ・GRMはやりがいがある仕事だと思う:22名、いいえ:1名
 ・医療安全に係る仕事を続けていくつもりはある:18名、ない:4名
 ・臨床面での不安がある:15名、ない:7名
 ・GRMとしての業績や身分に不安がある:14名(うち専従4名)、ない:7名(うち専従4名)

○考察より抜粋

特に、80%以上の業務を医療安全管理に充てている専従医師GRMでさえ、半数が臨床面、将来について不安を感じながら仕事をしているという状況は認識されるべきであろう。

ほとんどすべての医師GRMが、医師GRMは必要であり、かつやりがいのある仕事と答えており、大多数の医師GRMが医療安全に関わる仕事を続けていくつもりがあると回答した。GRMという職種は、病院の上層部との意見の対立、特に医師であれば、他の医師との意見の対立などが生じることもあり、ストレスの多い仕事である。現役の医師GRMのほとんどが、医師GRMという職種を肯定的に考えているということは、今後医師GRMに就任する医師および設置を考える病院双方にとって意義のある結果と思われる。
 

【文献】カルテレビューによる有害事象の把握と追加的コストの推計の試み

【ソース】

天生目理香(国際医療福祉大学病院医療安全管理室)ら:カルテレビューによる有害事象の把握と追加的コストの推計の試み.医療の質・安全学会誌7:124-132,2012.

【概要】

○約200床のA病院(2006年7~12月及び2007年7~12ヶ月の12ヶ月分)で、全国のDPC病院における平均入院期間(2008年4月版)よりも入院期間が延長した予定手術症例患者(172名)に起きている有害事象(レベル3a以上)の発生状況を把握した。

○有害事象が生じていたのは23件(13.3%。看護師による1次レビューで172名中26名、医師による2次レビューで血糖測定忘れ1件、転倒2件が除外された)。

○発生した有害事象は29件。術後イレウス9件、術後感染9件、薬剤アレルギー1件、創部離開2件、術後出血1件、術後縫合不全1件、術後排尿障害2件、他科疾患の新規発生1件、眼圧上昇2件、褥創1件。

○うち21件(72.4%)の有害事象は予防可能性が高いと判断された。術後感染8件、術後イレウス8件、術後創部離解2件、褥創1件、術後排尿障害1件、術後縫合不全1件。

○有害事象発症例の追加的コスト総額は約350万円。有害事象1件あたり約17万円。

○考察より抜粋
今回の研究全体を通して、カルテレビューは有害事象の把握に有効な手段であることが確認された。その理由として、今回の研究で確認された医療過誤によらない大部分の有害事象に関しては、インシデント・アクシデントレポートによって報告されることは非常に少ないためである。実際、今回の研究で明らかになった有害事象に関するレポートは提出されていなかった。医療安全、さらに医療の質を保つためには自発報告だけでは把握されることのない有害事象を、医療安全および医療の質に関して責任を持った部署が正確に把握し、臨床の現場へフィードバックしていくことが非常に重要であると考える。


2012/05/15

【産科医療補償制度】第2回報告書公表。

【ソース】
産科医療保障制度:第2回 産科医療補償制度 再発防止に関する報告書


【要点など】

○補償対象となった児のうち、2011年12月末までに事例公表された79件(2009年出生76件、2010年出生3件。p36)を対象として分析実施。

○数量的・疫学的分析とテーマ分析(吸引分娩・常位胎盤早期剥離の保健指導・診療録記載)を実施。

○産科合併症(p23:表3-II-20)
  切迫早産25
  常位胎盤早期剥離 20
  子宮内感染 15
  子宮破裂 5
  臍帯脱出 5
  妊娠高血圧症候群 5
  妊娠糖尿病 2
  上記に該当なし 21

○分娩経過(p23:表3-II-21)
  経腟分娩 29
    正常分娩 16
    吸引分娩 11
    鉗子分娩  2
  帝王切開 50
    予定帝王切開 1
    緊急帝王切開 49

○臍帯動脈血pH(p30:表3-II-44)より
  検査実施なし 33
  検査実施あり 46
    7.1以上 14
    7.1未満 32

○吸引分娩について
  79例中19件で実施あり(うち12例はクリステレル胎児圧出法併用)。
  帝切術を要したもの 8件
  総牽引時間20分超 3件
  吸引回数6回以上 2件

○クリステレル胎児圧出法に関する提言(p50)

(3)クリステレル胎児圧出法の併用は、胎児の状態が悪化する可能性があることを認識する。
 クリステレル胎児圧出法は、数回の施行で分娩に至ると考えられるときのみ併用し、漫然と施行しないことが重要である。


 ○常位胎盤早期剥離の保健指導
  背景
   妊娠高血圧症候群 2
   蛋白尿 9
   切迫早産 11
   早産 6
   前期破水 1
   子宮内感染 1
   喫煙(うち妊娠中も喫煙)  5(2)
   出生時Light for datesであった児 1
   標準的でない妊婦健診受診 1
   上記に該当なし 1


  常位胎盤早期剥離の直接の原因は明らかになっていないが、常位胎盤早期剥離の予防のた
めに、その危険因子に関する様々な研究がなされており、「産婦人科診療ガイドライン-産科編2011」には、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離の既往、切迫早産(前期破水)、外傷(交通事故など)が危険因子として記されている。その解説には、常位胎盤早期剥離の発症に関して、妊娠高血圧症候群に多いことや、常位胎盤早期剥離の既往がある妊産婦で10倍多いことなどが記載されている。その他、日本産科婦人科学会周産期委員会周産期登録事業の報告によると、妊娠高血圧症候群の妊産婦は常位胎盤早期剥離の発症率が4.45倍とされている。


○診療録の記載

1)産科医療関係者に対する提言
(1)「 産科医療補償制度の原因分析・再発防止に係る診療録・助産録および検査データ等の記載事項」を参考に診療録等を記載する。
(2) 特に、異常出現時の母児の状態、および分娩誘発・促進の処置や急速遂娩施行の判断と根拠や内診所見、新生児の蘇生状況については詳細に記載する。
 原因分析および再発防止が適正に行われるため、また医療安全の観点からも診療に関する情報が正しく十分に記載されることが重要である。一見して分娩経過が分かるように、パルトグラムに診療情報を記載するなど1ヶ所に全ての診療情報を記載する工夫も必要である。


※参考 p70

産科医療補償制度の原因分析・再発防止に係る診療録・助産録および検査データ等の記載事項
Ⅰ.診療録・助産録
1.外来診療録・助産録
1)妊産婦に関する基本情報
(1)氏名、年齢、身長、非妊娠時体重、嗜好品(飲酒、喫煙)、アレルギー等
(2)既往歴
(3)妊娠分娩歴:婚姻歴、妊娠・分娩・流早産回数、分娩様式、帝王切開の既往等
2)妊娠経過記録
(1)分娩予定日:決定方法、不妊治療の有無
(2) 健診記録:健診年月日、妊娠週数、子宮底長、腹囲、血圧、尿生化学検査(糖、蛋白)、浮腫、体重、胎児心拍数、内診所見、問診(特記すべき主訴)、保健指導等
(3)母体情報:産科合併症の有無、偶発合併症の有無等
(4) 胎児および付属物情報:胎児数、胎位、発育、胎児形態異常、胎盤位置、臍帯異常、羊水量、胎児健康状態(胎動、胎児心拍数等)等
(5)転院の有無:転送先施設名等
2.入院診療録・助産録
1)分娩のための入院時の記録
(1) 母体所見:入院日時、妊娠週数、身体所見(身長、体重、血圧、体温等)、問診(主訴)、内診所見、陣痛の有無、破水の有無、出血の有無、保健指導等
(2)胎児所見:心拍数(ドプラまたは分娩監視装置の記録)、胎位等
(3)その他:本人・家族への説明内容等
2)分娩経過
(1) 母体所見:陣痛(開始時刻、状態)、破水(日時、羊水の性状、自然・人工)、出血、内診所見、血圧・体温等の一般状態、食事摂取、排泄等
(2)胎児所見:心拍数(異常所見およびその対応を含む)、回旋等
(3) 分娩誘発・促進の有無:器械的操作(ラミナリア法、メトロイリーゼ法等)、薬剤(薬剤の種類、投与経路、投与量等)等
(4)その他:観察者の職種、付き添い人の有無等
3)分娩記録
娩出日時、娩出方法(経腟自然分娩、クリステレル圧出、吸引分娩、鉗子分娩、帝王切開)、分娩所要時間、羊水混濁、胎盤娩出様式、胎盤・臍帯所見、出血量、会陰所見、無痛分娩の有無等
 
4)産褥記録
母体の経過:血圧・体温等の一般状態、子宮復古状態、浮腫、乳房の状態、保健指導等
5)新生児記録
(1) 新生児出生時情報:出生体重、身長、頭囲、胸囲、性別、アプガースコア、体温、脈拍・呼吸
等の一般状態、臍帯動脈血ガス分析値※注、出生時蘇生術の有無(酸素投与、マスク換気、気管挿管、胸骨圧迫、薬剤の使用等)等
※注:個別審査対象の児に必要であり、他の児についても検査することが望ましい。
(2) 診断:新生児仮死(重症・中等症)、胎便吸引症候群(MAS)、呼吸窮迫症候群(RDS)、頭蓋
内出血(ICH)、頭血腫、先天異常、低血糖、高ビリルビン血症、感染症、新生児けいれん等
(3)治療:人工換気、薬剤の投与(昇圧剤、抗けいれん剤等)等
(4) 退院時の状態:身体計測値、栄養方法、哺乳状態、臍の状態、退院年月日、新生児搬送の有無、搬送先施設名等
(5)新生児代謝スクリーニング結果
(6)新生児に関する保健指導
3.その他
分娩経過表(パルトグラム)、手術記録、看護記録、患者に行った説明の記録と同意書、他の医療機関からの紹介状等
Ⅱ.検査データ
外来および入院中に実施した血液検査・分娩監視装置等の記録(コピー可)




2012/03/29

【判例レビュー】債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟の損害の範囲と弁護士費用(労働災害事案)

【ソース】
平成24年02月24日最高裁判所第二小法廷判決

○要旨引用

 労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって,労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。

 そうすると,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。

 したがって、労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである


【コメント】

医療過誤訴訟においても、不法行為構成と診療契約上の債務不履行構成の二通りがあり得ます。

上記判例は労災事故に関するものではありますが、医療過誤訴訟を債務不履行構成に基づいて提起する場合(不法行為構成では消滅時効にかかる場合等)の弁護士費用の扱いについても、あてはまる部分が大きいものと考えられます。

ただし、医療過誤事件における患者側の主張立証責任の重さに照らした場合、債務不履行構成の下でも、不法行為構成の場合と同等の主張立証責任を負う結果となることが妥当なのかどうかについては、患者代理人の側から絶えず問題提起をしていく必要があると考えています。


【参考判例】

昭和44年2月27日最高裁判所第一小法廷判決
(根抵当権の不存在につき少なくとも過失により競売の申立をしたことは不法行為を構成するとして損害賠償を請求した事例)


○要旨引用


 思うに、わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の 余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者 に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。

 従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利 を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一 般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。

 そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行 を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、 右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。


 

【事故報道】呼吸補助装置の酸素ボンベの開栓を怠り酸素供給途絶。直後に患者死亡。所轄署への連絡は6日後。

【ソース】
京都新聞:酸素供給ミス直後に患者死亡 山科の病院 6日後、警察に相談 

【要点】
  • 2012年3月20日午前3時半ころ、愛生会山科病院に肺炎で入院中の70歳代女性に装着された呼吸補助装置のアラーム(ボンベ酸素残量)が鳴り、業者による復旧作業が行われたが、午前4時34分に患者死亡が確認された。
  • 同月19日に業者が酸素漏れの修理を行った際、終了後の開栓を怠った。
  • 病院は業者から不備ありとの報告書を受領したとのこと(※記事では受領時期は不詳)。
  • 同月26日、病院は山科署に事案を電話相談。それ以前の届出なし。
  • 病院コメント「患者は重篤な状態で亡くなったことに違和感はなかった。明確な異状死とは判断していないが、弁護士から医師法に基づき報告した方がいいと言われた」
  • 2012/03/29現在、同病院のウェブサイトに本件の情報なし。
【コメント】

報道されている限りの事実が前提であれば、酸素投与を要する患者に装着された機器の酸素ボンベが、誤って閉栓されたままとなっており、その状態の下で患者が死亡したことになりますので、死亡後速やかに(遅くとも業者からの報告を受けた直後に)医師法21条に基づき所轄の警察署に届出を行うべきケースだったのではないかと考えられます。

日本学術会議が医療関連死の届出先となるべき第三者機関創設を提言してから6年以上が経過しますが、未だに第三者機関創設には至っていないことが、最大の問題と言えます。

【参考資料】

医師法

 第二十一条  医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

第三十三条の二  次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
 第六条第三項、第十八条、第二十条から第二十二条まで又は第二十四条の規定に違反した者 
 
 
【要旨1】
医師法21条にいう死体の「検案」とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい,当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わないと解するのが相当であり,これと同旨の原判断は正当として是認できる。
 
【要旨2】
死体を検案して異状を認めた医師は,自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも,本件届出義務を負うとすることは,憲法38条1項に違反するものではないと解するのが相当である。 
 

 ===以下引用(下線は引用者による)===
3 提言の内容

1)届け出るべき異状死体及び異状死
 

(1)一般的にみた領域的基準
異状死体の届出が、犯罪捜査に端緒を与えるとする医師法第21 条の立法の趣旨からすれば、公安、社会秩序の維持のためにも届出の範囲は領域的に広範であるべきである。すなわち、異状死体とは、
① 純然たる病死以外の状況が死体に認められた場合のほか、
② まったく死因不詳の死体等、
③ 不自然な状況・場所などで発見された死体及び人体の部分等も
これに加えるべきである。
 

(2)医療関連死と階層的基準
いわゆる診療、服薬、注射、手術、看護及び検査などの途上あるいはこれらの直後における死亡をさすものであり、この場合、何をもって異状死体・異状死とするか、その階層的基準が示されなければならない。
① 医行為中あるいはその直後の死亡にあっては、まず明確な過誤・過失があった場合あるいはその疑いがあったときは、純然たる病死とはいえず、届出義務が課せられるべきである。これによ
り、医療者側に不利益を負う可能性があったとしても、医療の独占性と公益性、さらに国民が望む医療の透明性などを勘案すれば届出義務は解除されるべきものではない。
② 広く人の病死を考慮した場合、高齢者や慢性疾患を負う、いわゆる医学的弱者が増加しつつある今日、疾患構造の複雑化などから必ずしも生前に診断を受けている病気・病態が死因になるとは限らず、それに続発する疾患や潜在する病態の顕性化などにより診断に到る間もなく急激に死に到ることなども少なくない。さらに、危険性のある外科的処置等によってのみ救命できることもし
ばしばみられているが、人命救助を目的としたこれら措置によっても、その危険性ゆえに死の転機をとる例もないことではない。
このような場合、その死が担当医師にとって医学的に十分な合理性をもって経過の上で病死と説明できたとしても、自己の医療行為に関わるこの合理性の判断を当該医師に委ねることは適切でない。ここにおいて第三者医師(あるいは医師団)の見解を求め、第三者医師、また遺族を含め関係者(医療チームの一員等)がその死因の説明の合理性に疑義を持つ場合には、異状死・異状死体とすることが妥当である。ここにおける第三者医師はその診療に直接関与しなかった医師(あるいは医師団)とし、その当該病院医師であれ、医師会員であれ、あるいは遺族の指定するセカンド
オピニオン医師であれ差し支えはない。このようなシステムを各病院あるいは医療圏単位で構築することを提言する。
 

2) 医療事故再発防止と被害者救済
いわゆる突然死又は医療事故死、広く医療関連死の問題を総合的に解決するための第三者機関を設置し、医療関連死が発生した場合、その過誤・過失を問うことなく、この第三者機関に届け出ることとすべきである。この第三者機関は、単に異状死のみならず、医療行為に関連した重大な後遺症をも含めた広範な事例を収集するものとすべきであり、この上に立って医療事故の科学的分析と予防策樹立を図るものとする。このような構想は、すでに日本内科学会、日本外科学会、日本病理学会、日本医学学会の共同声明でも提唱されている。(資料6)
この第三者機関は、事例の集積と原因分析を通じ、医療事故の再発防止に資するとともに、医学的に公正な裁定を確保し、被害者側への有効で迅速な救済措置の実施のために裁判以外の紛争解決促進制度(ADR)の導入や労働者災害補償保険制度に類似した被害補償制度の構築などを
図るべきものとする。このような機関の設立は、医療行政担当機関、法曹界、医療機関、被害者側及び損害保険機関等の協力によって進められることが望ましい。今日、国民の医療に関して、このような第三者機関が存在しないことは、わが国医療体制の脆弱性を表すものであり、日本学術会議は第三者機関のあるべき姿について、さらなる総合的検討をなすとともに、関係機関に対し、その実現のためのイニシアティヴを強く期待し、ここに提言するものである。

 ===以上引用===

2012/03/27

【判決レビュー】病院内浴室で熱傷を負った高齢女性入院患者が死亡した事例(千葉地裁平成23年10月14日判決)

【ソース】
 平成21年(ワ)第1651号 損害賠償請求事件(医療)
【要点】
  • 両変形性膝関節症の手術目的で入院した当時79歳の女性が、平成20年11月6日(手術前日)午後2時に入浴のため浴室に入ったところ、約40分後に浴槽内で全身熱傷の状態で発見された。翌日死亡。
  • 浴室に入った時点で浴槽は空であった。発見時、給湯栓から55-56℃の湯が出たままとなっていた。 浴槽の栓は閉まっていなかったが、患者の体が排水口をふさいでおり、20-30cmの深さで湯が溜まっていた。
  • 患者に認知症はなく、判断力に問題はなかったが、患者は給湯栓を開くと55-56℃の湯が出ることを知らず、浴室まで付き添った看護師もそのことを説明していなかった。
  • 裁判所は、①給湯給水設備の使用方法及び熱傷を負うおそれのある熱湯が出ることを説明しなかった点、②浴室に入ってから30分が経過した後も安全確認を行わなかった点について病院の過失を認定した。
  • 被告は、午後3時38分の血液検査でAST、LDH、CPKの上昇が、午後6時5分にはトロポニンTの上昇が認められたこと等を理由として、急性心筋梗塞を発症して意識喪失に至って転倒し、その結果熱傷を負ったと主張したが、裁判所は、上記過失と熱傷による患者の死亡の因果関係を肯定した。
  • 被告は、患者の心筋梗塞発症の結果への寄与による過失相殺類推適用を主張したが、裁判所は採用せず。
  • 裁判所は、病院に対し、1925万円と遅延損害金の支払いを命令。内訳は慰謝料1600万円(近親者慰謝料含む)、葬儀費150万円、弁護士費用175万円。

【コメント】

こうした痛ましい事故の再発を防止するには、患者が利用する設備に、こうした熱湯の出る設備があること自体を改善する必要があると考えられます。本欄をお読みになった医療関係者の方には、自院内の浴室の給湯栓の状況をご確認いただければと思います。

【医薬品副作用】医薬品医療機器総合機構が患者からの医薬品副作用報告のオンライン受付を開始

【ソース】
医薬品医療機器総合機構(PMDA)患者副作用報告
厚生労働省: (独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)による患者からの医薬品副作用報告の試行開始について(お知らせ)


【要点】

2012/03/26

【書類送検】塩化カリウム製剤を希釈せずに点滴した准看護師を書類送検。

【ソース】
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120315k0000m040050000c.html

【要点】
  • 2010年1月23日、今市病院(日光市)に入院中の88歳女性の低カリウム血症に対し、准看護師が塩化カリウムを希釈すべきところ原液を点滴。
  • 同年1月27日に患者は心不全で死亡。
  • 病院は直後にミスを説明し、補償を終えている。
  • 栃木県警今市署は、准看護師を業務上過失致死容疑で宇都宮地検に書類送検。
【参考情報】

医薬品医療機器総合機構:医療安全情報19:カリウム(K)製剤の誤投与について


【終末期医療】島根大学病院が「事前要望書」のリーフレットを報道発表

【ソース】
http://www.med.shimane-u.ac.jp/hospital/houdou/houdou120312.html

【要点】
  • 島根大学医学部附属病院は、平成20年に、「医の倫理委員会」に諮り、「事前要望書」の仕組みを作成した。
  • 同病院は、そのリーフレットを作成し、2012年3月12日に報道発表した。
  • リーフレットによると「事前要望書」とは、「現在の医学では回復の見込みがなく、治療について自分の意思表示ができないような状態になったとき、自分にしてほしくない治療を文書で伝えておくものです。」と説明されている。

【提訴報道】筋ジストロフィーの痰による窒息とパルスオキシメーターによる監視のあり方について

【ソース】
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=55781

【要点】
  • 2011年8月16日、国立病院機構山形病院に短期入所中の筋ジストロフィーの男児(9歳)が痰を詰まらせて窒息、心肺停止を経て意識障害残存。
  • 自宅用の簡易型パルスオキシメーターを装着していたため、ナースステーションで監視ができなかった。
  • 2011年2月22日、両親らが約3200万円の賠償を求めて山形地裁に提訴。病院用の機器を使用する義務ありと主張。
  • 病院側は医療過誤性を否定するコメント。

2012/03/23

【行政処分制度】「行政処分の考え方」初改正。不正請求厳罰化。

【ソース】
厚生労働省:「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」の改正について

【要点】
  • 2012年3月4日開催の医道審議会医道分科会において、「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」が改正された。
  •  診療報酬の不正請求により保険医等の取消処分を受けた事案については、当該不正請求を行ったという事実に着目し、原則として、不正額の多寡に関わらず、一定の処分内容とするとされた。
  • 保険医登録の取消処分においては、不正請求額の多寡にかかわらず、取消期間が一定となっていること等を踏まえて改正された。
  • そのほかは従前どおり。
  • 2002年12月に「考え方」が示されて以来の初の改正。

2012/03/05

【行政処分報道】刑事事件有罪判決のない2件の医療過誤を理由として、国が同一医師に対する戒告処分を決定。

【ソース】
http://www.asahi.com/national/update/0305/TKY201203050082.html

【要点】
  • 2012年3月5日、三重県四日市市の産婦人科医(71歳)に対し、戒告処分が決定。3月19日発効。
  •  2011年9月に、同医師に対しては、出産後の女性が死亡した件(業務上過失致死罪で罰金刑が確定)について戒告処分が下されていた。
  • 今回は、同医師が起こした脳性麻痺事故と死産事故の2件(いずれも刑事事件における有罪判決はない)についてあらたに戒告処分。再教育措置も再度行われる。
  • 刑事事件以外の医療事故を理由とする行政処分は本件までに3件のみ。
【関連情報】
===以下引用===
 医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
 戒告
 三年以内の医業の停止
 免許の取消し
===以上引用===
===以下引用===
 第四条  次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
 罰金以上の刑に処せられた者
 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
===以上引用===
===以下引用===
医師法第7条第2項及び歯科医師法第7条第2項に規定する行政処分については、医師、歯科医師が相対的欠格事由に該当する場合又は医師、歯科医師としての 品位を損するような行為があった場合に、医道の観点からその適性等を問い、厚生労働大臣はその免許を取り消し、又は期間を定めて業務の停止を命ずるもので ある。
【中略】
国民の医療に対する信頼確保に資するため、刑事事件とならなかった医療過誤についても、医療を提供する体制や行為時点における医療の水準などに照らして、 明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱うものとし、具体的な運用方法やその改善方策について、今後早急に検討を加え ることとする。  
【中略】
6)    業務上過失致死(致傷)
(2)    医療過誤(業務上過失致死、業務上過失傷害等)
 人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する医師、歯科医師は、その業務の性質に照し、危険防止の為に医師、歯科医師として要求される最善の注意義務を尽くすべきものであり、その義務を怠った時は医療過誤となる。
 司法処分においては、当然、医師としての過失の度合い及び結果の大小を中心として処分が判断されることとなる。
 行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、医師、歯科医師として通常求められる注意義務が欠けているという事案については、重めの処分とする。
 なお、病院の管理体制、医療体制、他の医療従事者における注意義務の程度や生涯学習に努めていたかなどの事項も考慮して、処分の程度を判断する。
===以上引用===
※下線は引用者による。

【コメント】

行政処分制度は、「医道の観点」から医師等の適性等を問う制度であり、制度上は、「医師としての品位を損するような行為のあったとき」も処分の対象とされています。このように刑事処分と行政処分は、目的の異なる制度です。

しかしながら、現実には、医療過誤に関する医師の行政処分は、基本的に刑事処分の後追いという形で運用されており、行政処分としての独自性はほぼ失われています。
今回の産婦人科医への処分は、刑事事件とは別個に国が事実認定を行って下したものという点で、刑事処分の後追いに留まらないものと言えます。

もっとも、現状の医道審議会は、多くの事案の事実認定を行い得るような体制にはありません。また、医療事故の網羅的な届出・報告制度も確立していません。報告義務が課せられているのは、特定機能病院等の一部医療機関のみであり、しかも義務を負う病院間での届出実施状況には大きな差異があります。

※参考

したがって、今後も刑事処分の後追いとして行政処分制度が運営されていくという流れが変わるとは思えません。同様の事故を起こしたにも関わらず、処分がされるケースもあれば、処分されないケースもあるという、不平等・不透明な状況は、今後も続くことが予想されます。

こうした不透明な状況を健全なものとするためには、まず、医療事故事案をきちんと把握し、どのような事故に対し、どのような処分や再教育が必要なのかを丁寧に検討していく必要があります。
そのためにも、日本医学会加盟主要19学会共同声明の提案するような、医療事故の届出制度が早期に創設される必要がありますが、残念ながら今なお実現の目途は立っていません。

大変に残念です。 

2012/03/03

【示談報道】心臓カテーテル検査による仮性動脈瘤形成→神経圧迫

【ソース】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120228-00000035-kana-l14

【要点】
  • 2010年8月、藤沢市民病院で慢性腎不全の64歳女性が心臓カテーテル検査を受けた。
  • 右上腕のカテ挿入部を圧迫止血。
  • 検査後不調を訴えるも4度の診察で動脈瘤を発見できず、救急搬送後の超音波検査で6cm×3cmの動脈瘤が神経を圧迫し右手指に障害が発生したことが判明した。
  • 藤沢市は、女性に270万円を賠償する。2011年2月27日公表。

【類似事例など】

名古屋地方裁判所平成12年5月26日判決(平成3年(ワ)295)
  • 鼠径部から刺入した事例。止血不充分、出血・血腫形成を経て大腿神経麻痺。
  •  病院に対し、約1100万円の賠償を命令。判決確定。
  • 判例タイムズ1092号254頁。


2012/02/27

【備忘】診療記録開示申請書に理由欄を設けることは不適切。

【ソース】

国立大学附属病院長会議:国立大学附属病院における診療情報の提供等に関する指針(第2版):7項(3)の1:2006年3月31日

 ===以下引用===
診療記録の開示を求めようとする者は、書面(申請書)により病院長に申請するものとする。なお、患者等の自由な申立てを阻害しないため、申立ての理由の記載を要求することは不適切である。
 ===以上引用===


厚生労働省:診療情報の提供等に関する指針(平成22年10月22日改訂版)
※平成15年9月12日付医政発第0912001号の一部改正を平成22年9月17日医政発0917第15号によって各都道府県に通知。

 ===以下引用===
診療記録の開示を求めようとする者は、医療機関の管理者が定めた方式に従って、医療機関の管理者に対して申し立てる。なお、申立の方式は書面による申立てとすることが望ましいが、患者等の自由な申立てを阻害しないため、開示等の求めに係る申立て書面に理由欄を設けることなどにより申立ての理由の記載を要求すること、申立ての理由を尋ねることは不適切である。
 ===以上引用===

【コメント】

患者さんやご家族から、「カルテ開示を申請する際に、理由の記載を求められたがどうしたらよいか?」という相談をいただくことがあります。

従前より、「診療情報提供等に関する指針」等においては、申立の理由の記載を要求することは、自由な申立を阻害するおそれがあるから不適切とされていました。

しかしながら、実際には、理由の確認を求められるケースが後を絶たないため、平成22年9月に、厚生労働省は同指針を一部改正し、申立書面に理由欄を設けることは不適切であることを明文化しました。

それから1年半が経過しますが、残念ながら、今なお、国立大学附属病院などにおいても、依然として理由欄が撤廃されないままとなっているケースが散見されます。

当欄をご覧になった医療従事者の方には、自院でどのような書式を用いているのか、今一度見直してみることをお勧めします。

2012/02/23

【和解報道】北九州市が大動脈解離の診断遅延事案で遺族と和解へ。

【ソース】

【要点】
  • 2009年4月に呼吸困難を訴える31歳男性が北九州市立八幡病院を受診。心因性過呼吸と診断され、翌日に背部痛を訴えるも再度心因性として精神科を紹介される。4日後に症状が悪化し、他院で大動脈解離疑いと指摘されるも死亡。
  • 2010年、市は CT検査による診断可能性があったとして過失を認め謝罪。
  • 2011年2月23日からの市議会に、裁判所和解案(賠償金約6300万円の支払)を受け入れる議案を提出する。
【同種事例】

【カンガルーケア】日本産婦人科医会が会員に文書による注意喚起を実施。

【ソース】
日本産婦人科医会出生直後に行う「カンガルーケア」について

【要点】
  • 平成23年12月付けで、日本産婦人科医会が寺尾俊彦会長名で、同会会員に対し、出生直後に行うカンガルーケア実際の際の安全管理について、注意を喚起した。
  • 要点は、次の4点。
  1. 選択・除外基準を含む施設毎のマニュアルを作成すること
  2. 母親と家族への十分な事前説明を経た上で希望を確認すること 
  3. 医療者による十分な観察を行こと(母による観察の限界の認識)
  4. 医療者が新生児蘇生に熟練していること
  • 原文(抜粋)は以下のとおり。



 ===以下引用===

1. 適 応 基 準・除外基準等を含めて、「カンガルーケア・ガイドライン」( カンガルーケア・ガイドラインワーキンググループ編;h t t p : / / m i n d s . j c q h c . o r . j p / s t c / 0 0 6 8 / 0 0 6 8 _ C o n t e n t s T o p . h t m l )等を参考にした施設ごとの実施マニュアルを作成する。
 

2. 母 親 ( お よ び 家 族 ) に 対 し て 、 新 生 児 の 顔 色 や 呼 吸 等 の 観 察 の重要性および新生児のポジショニング等を含めた十分な事前説明を行い、母親( および家族) が「カンガルーケア」を理解し希望していることを確認した上で実施する。
 

3. 母 親 ( お よ び 家 族 ) が 新 生 児 の 観 察 を 自 力 の み で 行 う こ と に は限界があるため、必ず医療側も十分な観察を行う。
 

4. 「カンガルーケア」実施に携わる医療者は新生児蘇生に熟練している必要がある。

  ===以上引用===

【参考サイト】

2012/02/22

【産科補償】平成23年12月までに252件を補償対象に認定。

【ソース】

【要点など】

<補償認定数など>
  • 平成23年12月までに274件が審査され、252件が補償対象として認定された。10件が補償対象外、9件が再申請可能、3件が継続審査中。
  • 年度別では、平成21年生まれは、審査177件中認定158件。平成22年生まれは、審査94件中認定91件、平成23年生まれは審査3件中認定3件。
  • 平成21年生まれの総数が確定するのは平成26年末を過ぎて審査が完了した段階になってから。 
 <補償事例内訳など>
  • 補償対象252件中、一般審査(在胎週数33週以上かつ2000g以上)による認定が233件(約92.5%)、個別審査(在胎週数28週以上と所定基準)による認定が19件(約7.5%)。
  • 補償対象外19件中、先天要因または新生児期要因によるとされたものが4件、 週数28週以上の個別審査において補償対象基準をを満たさないものが6件。
  • 252件における申請から補償金支払いまでの平均期間は73日。
<損害賠償等との関係など>
  • 252件中、2件(0.8%)については訴訟を経ずに損害賠償が確定し、補償制度との調整が完了した。1件は補償申請前に賠償責任が確定していた。
  • 他に訴訟中が3件、提訴前交渉中が5件、証拠保全のみが8件。
  • 252件中平成23年12月末までに87件について原因分析報告書を送付済。87件中賠償請求等が行われた事案は8件(9.2%)で、うち2件は報告書送付後に賠償請求がなされた。 
  • 同制度(事務局?運営組織?)では「現在のところ、原因分析報告書が損害賠償請求等に影響をしているとは必ずしも言えない」と分析している。
<「原因分析に関するアンケート」結果など>
  • 2011年7月末から8月に、平成22年の報告書送付例20事例の保護者と分娩機関(搬送元4機関を含む)に送付。分娩機関24機関中17機関(70%)、保護者20事例中8例(40%)から回答。
  • 分娩機関17回答中、報告書にとても納得できたのは4機関、だいたい納得できたのは12機関、あまり納得できなかったのは1機関。
 <その他>
  • 報告書全文版の開示請求はこれまでに59件。 
  • 同一分娩機関における複数事案目の分析の結果、当初jの事案から改善がみられないと判断された場合や、1事案目であっても繰り返されるおそれがあると判断された場合は、原因分析委員会と運営組織の連名で報告書に別紙を添付して、一層の改善を求めることとしている。
  • 半年後を目途に改善事項等の取り組み状況の報告を求めている。

【不明点など】
  • 日本医師会医師損害賠償責任保険制度が把握する脳性麻痺紛争事案数の変化の有無について。
  • 補償制度発足後の上記賠償保険制度の財政状況の変化の有無について。
 【コメント】
  • 分娩時脳性麻痺事案がほぼ100%捕捉できることになった結果、個別事例の情報だけではわからなかった全体像の把握が進みつつあるように感じられます。ただ、制度自体の評価を行うには、もう少し推移を見守る必要もありそうです。

  • 事例が増えてきた結果、原因分析のため事実整理等の事務処理がなかなか進まなくなっているのではないかと感じられる場面も出てきています。正しい原因分析を行うためには、カルテから適切な事実認定が行われていることが不可欠です。その事実認定作業を丁寧かつ迅速に行いうるだけの事務体制が整っているのかどうかという点に、個人的には関心があります。

  • 同一分娩機関における同種事故の再発のおそれに対して、運営組織と原因分析委員会から別紙という形で改善を促す体制が整ったことは、過去の歴史を振り返ると、非常に画期的であると言えます。こうした形で「事故に学ぶ医療文化」がより根付いていくことを期待したいです。

  •  なお、岡井崇原因分析委員長のヒアリングの資料が添付されていますが、その末尾に、「産科医療補償制度-成果の達成目標-」とのスライドがありました。そこには、達成目標として「1.脳性麻痺訴訟の減少 2.脳性麻痺発生頻度の低下」と書かれています。本制度の成果は、あくまで脳性麻痺発生頻度の低下=医療の質の向上=の達成の有無によって評価すべきであると思います(訴訟の減少はあくまで発生頻度低下によってもたらされる附随的結果にすぎないと考えるべきです)。岡井委員長も、脳性麻痺発生頻度の低下を目標の2つのうちの1つに挙げていますので、医療の質の向上で評価するということを無視しているわけではないことは理解できますが、訴訟の減少が達成目標の第一に挙げられていることについては、違和感が残りました。



2012/02/20

【示談報道】腰部脊柱管症に対する手術時の神経損傷で肛門周辺の感覚が鈍麻。

【ソース】
http://mainichi.jp/area/yamagata/news/20120218ddlk06040271000c.html

【要点】

  • 山形市立病院済生館が70歳代男性に758万円の賠償金支払いへ。2月市議会に議案提出予定。
  • 2010年3月、70代男性の腰部脊柱管狭窄症に対する手術(骨削除)時に神経損傷。
  • 肛門周辺の感覚鈍麻残存。
  • 術後、病院は謝罪し示談交渉を継続していた。
【不明点等】
  • 術式の詳細、神経損傷部位等。

【判決報道】脳動脈瘤コイル塞栓術と開頭クリッピング術の比較説明の不備とコイル塞栓術の手技上の過誤を認定。

【ソース】
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012021790201603.html
http://www.asahi.com/national/update/0217/NGY201202170030.html
http://www.nikkei.com/news/local/article/g=96958A9C93819496E3E5E2E2838DE3E5E2E0E0E2E3E0919CEAE2E2E2;n=9694E3E4E3E0E0E2E2EBE0E0E4E4
http://mainichi.jp/life/health/medical/news/20120218k0000m040101000c.html

【要点】

  • 名古屋地裁平成24年2月17日判決(堀内照美裁判長)。
  • 藤田保健衛生大学病院開設者に対し、約1億7000万円の賠償を命令。
  • 2006年4月、50代女性に脳動脈瘤があることが判明。
  • 2006年8月に脳動脈瘤コイル塞栓術を実施した際に、脳動脈瘤から出血。
  • くも膜下出血、脳梗塞により左半身麻痺が残存。夫が退職して介護を担当。
  • 開頭術の方がリスクが少ないことの説明を欠いたと認定。説明を尽くしていれば開頭術を選択したと認定。
  • カテーテル操作の手技上の過誤も認定。
【報道上の不明点等】
  • 判決原文未入手。2012/02/20現在最高裁サイトに掲載なし。
  • 瘤の大きさ、部位。
  • 脳動脈瘤損傷に至る機序の詳細。
【コメント】

日本医療機能評価機構の報告事例検索サイトにおいて、「事故事例報告」「脳動脈瘤」「塞栓術」で検索をかけたところ、8事例がヒットしました。

そのうち、術中に瘤の破裂や虚血性合併症を来した事例について、事案の概要を以下に転載しておきます(下線は当ブログ筆者によるもの)。

個別事例の個々の分析だけではなく、同種事例を集積し、それらを比較検討することによって、原因分析が促進されるはずです。

実際に産科医療保障制度においてはそういった総合的なレビューが行われています。未破裂脳動脈瘤治療中の重大有害事象についても、そうした網羅的に集積された事例に対する総合的なレビューがなされることを期待したいです。

 【実施した医療行為の目的】
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対して、瘤内塞栓術+母血管閉塞術 水頭症に対して脳室ドレナージ術 重症くも膜下出血に対してバルビツレート療法
【事故の内容】
右椎骨動脈瘤に対し、全身麻酔下にコイル塞栓術を施行すべく、動脈瘤内にマイクロカテーテルを誘導していた。その際にカテーテルが瘤内で跳ねるような挙動を示し、瘤外(血管外)に逸脱、直後の造影で造影剤の漏出を認め、動脈瘤の破裂及びくも膜下出血を来したと判断した。
【事故の背景要因の概要】
不明
【改善策】
不明

【実施した医療行為の目的】
未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術

【事故の内容】
前交通動脈未破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術中。5本目のコイルを挿入中に、瘤内に留置してあったマイクロカテーテルが移動 し、瘤壁を穿孔、くも膜下出血の状態となった。止血のためへパリンをリバース、薬剤による降圧を行い、自然に止血されたことを確認。この時点で頭痛、嘔気 を訴えるものの、患者の神経症状に変化なし。より完全な止血を目指して、全身状態の安定化のための全身麻酔の導入を行い、塞栓術を続行。良好な塞栓が得ら れたこと、再出血をしていないことを確認し、塞栓術を終了。くも膜下出血の排出のための髄液腰椎ドレナージ追加。血圧管理のための全身麻酔2日間の継続を 行った。意識清明、神経症状の悪化なし。脳血管れん縮の予防治療を行った。

【事故の背景要因の概要】
カテーテルが不安定で容易に瘤外に脱出しやすい状態であったため、通常よりカテーテルを瘤内にやや強めに押し込んだことで、カテーテルが予想以上に移動したと考えられる。

【改善策】
常にカテーテルにかかる圧力を確認しながら、最新の注意でカテーテル操作を行うように心がける。 合併症発生の術前説明を十分に行う。



【実施した医療行為の目的】
動脈瘤に対して、開頭手術による加療が困難と判断されたため、ステント併用による脳動脈瘤コイル塞栓術(血管内治療)を実施した。
【事故の内容】
全身麻酔のもと手術を施行。血管の蛇行が強く、カテーテルの誘導やステントの誘導に難渋した。最終的に、ステントを病変部ま で誘導することができず、また、更なる治療の継続は血管穿孔などの致死的な合併症をきたす可能性が高いと判断されたため、手術を断念せざるを得なかった。 麻酔覚醒後に、右顔面麻痺、右上下肢麻痺が出現していることが分かった。症状発見後直ちに頭部CTを施行した。その結果,出血性病変は否定されたため,虚血性合併症が生じたものと判断した。
【事故の背景要因の概要】
詳細は不明であるが術後要因の検討を行い、現段階ではカテーテルの複数本の同時使用によって、脳血流の低下が長時間にわたり起こったためと推察している。
【改善策】
術式の検討。


【実施した医療行為の目的】
右椎骨動脈瘤に対するコイル塞栓術(全身麻酔下)

【事故の内容】
右椎骨動脈瘤に対し、全身麻酔下でコイル塞栓術治療時に汎用しているマイクロカテーテルを用いて同治療を施行。動脈瘤内にマ イクロカテーテルを誘導していた。その際にカテーテルが瘤内で跳ねるような挙動を示し、瘤外(血管外)に逸脱。直後の造影で、造影剤の漏出を認め、動脈瘤 の破裂及びくも膜下出血を来したと判断した。

【事故の背景要因の概要】
カテーテルを動脈瘤内に誘導中に動脈瘤内での跳ね。

【改善策】
不可抗力的な事例である。今後同治療を行う際、綿密な計画、慎重な操作をこれまでと同様に行う。

【実施した医療行為の目的】
未破裂脳動脈瘤に対する根治術

【事故の内容】
左内頸動脈未破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術中、動脈瘤からの出血あり。脆弱な動脈瘤壁の破裂によるものと考えられた。出血 に対する止血処置(へパリンのリバース、バルーンによる閉塞、コイルの追加充填)にて止血を得たが、この動脈瘤に対する根治術が必要と考え、緊急手術施行 (開頭外減圧術)。

【事故の背景要因の概要】
推測だが、脳動脈瘤の壁が非常に脆弱だった可能性がある。

【改善策】
予測不能な術中破裂であった。

2012/02/07

【示談報道】大腸切除術後の縫合不全による腹膜炎で死亡

【概要】

  • 72歳男性が2011年4月1日に鳥取県立厚生病院で直腸癌に対する大腸切除術を受けた。
  • 4月6日午前2時ころに急変、CT検査で放射線科医は腹膜炎の疑いを指摘。
  • 主治医は、下痢等から感染性腸炎と判断し、投薬実施。
  • 4月7日朝に心肺停止、開腹したところ縫合不全による汎発性腹膜炎と判明。
  • 4月9日に死亡。
  • 当初は過失なしと評価。
  • 遺族からの賠償請求を受け調査し、2011年11月に過失を認めた。
  • 約1800万円の賠償で合意。
【ソース】
http://mainichi.jp/area/tottori/news/20120203ddlk31040516000c.html

【コメント】

報道された事実を前提とすると、遺族の指摘がなければそのままになっていた可能性のある件ということになります。

手術等の侵襲性の医療行為の後に生じた不作為型の注意義務違反は、「合併症」というカテゴリーにくくられてしまって、事故として拾い上げられないままとなっていることが少なくありません。

遺族からの指摘がなくとも、検討すべき事案については自発的に十分なレビューが行われる仕組みが必要です。しかし、現実には医療機関毎あるいは事案毎にまちまちとなっており、大変残念です。

2012/02/01

【判決報道】子宮外妊娠で死亡、受診指示上の過失を認定

【要約】

  • 2007年10月3日に当時36歳の女性が妊娠の疑いで岡崎市民病院を受診。
  • 患者帰宅後に出た検査結果から、医師が子宮外妊娠の可能性に気がついた。
  • 10月4日朝、女性から腹痛を訴える電話あり、11:00受診予定となった。
  • 女性が来院せず、病院から自宅に複数回の電話。13:00につながり腹痛で動けないと言われ、救急車要請。
  • 5日後に出血性ショックで死亡。
  • 2012年1月27日、名古屋地裁が病院側に約6700万円の賠償を命令。
  • 腹痛の訴えの電話があった時点で、子宮外妊娠の可能性が高いことや危険性を具体的に伝えて、できるだけ早く来院するよう勧めるべきだったと認定。
【ソース】

【不明点】
  • 判決全文(2012/02/01現在裁判所サイトに掲載なし)
  • 10月3日の患者帰宅後に出た「検査結果」の具体的内容(検査名、所見等)
【子宮外妊娠に関する類似裁判例】

東京地裁平成5年8月30日判決(判例時報1503号108頁)
  • 平成元年7月16日、当時20代半ばの女性が腹痛を訴えて受診。最終月経は5月8日から14日間。内診実施、エコーで胎嚢写らず。夜間のため妊娠反応約検査は実施せず。
  • 7月17日、痛み持続あり、再度受診。内診実施、血液検査と尿一般検査実施。
  • 7月24日、3度目の受診。未だ生理なし。同日夜にショック状態、搬送先で開腹手術→左卵管間質部妊娠による卵管破裂と判明。
  • 8月8日退院、8月18日まで通院。
  • 判決は、7月17日及び7月24日に尿中hCG検査を実施すべきと認定。
  • 激痛や死亡の危険にさらされたこと、いずれにせよ手術必要であったが早期診断により臍上部まで切開創が伸びることは回避されたと考えられること等を理由として、慰謝料200万円の支払を命令。
===以下、東京地裁平成5年8月30日判決から引用===

被告●●が、七月一七日の時点でhCG検査を実施しておれば高い確率で陽性反応を得ることができ、右陽性反応が得られた場合、前日実施した超音波検査の結果や不正性器出血、下腹部痛等の症状と合わせて、原告が子宮外妊娠であると強く疑い得たにもかかわらず、被告●●は、子宮外妊娠の検査に必要不可欠とされているhCG検査を実施しなかったばかりか、内診に異常がなく、不正性器出血もないと誤診したため、被告●●は、原告が子宮外妊娠であるとの疑いを持つことがなく、七月一七日の時点では骨盤腹膜炎と、また、同月二四日には、卵巣機能不全と誤診したものである。

そのため、右誤診がなければ、子宮外妊娠の疑いをもってなすべき処置、すなわち原告を入院させ、更に入念な検査(内視鏡による検査等)を実施し、診断が確定次第開腹して卵管を摘出することができたにもかかわらず、右処置を怠ったため、原告の卵管が破裂するに至ったものであると認めることができる。

したがって、被告●●は、不法行為に基づき、原告に生じた本件損害を賠償する責任を負う。

<中略>

前記認定事実によれば、原告は、被告●●の誤診の結果、長期間激しい下腹部痛に悩まされ、とりわけ七月二四日の午後一〇時ころ、卵管が破裂し卵管摘出手術が行われるまで下腹部の激痛に苦しみ、死亡する危険さえもあったこと、また、《証拠略》によれば、子宮外妊娠の確定診断があった場合の一般的な治療方法としては開腹手術によるしかないことが認められ、したがって、同被告の前記過失がなかったとしてもいずれにせよ右手術を実施する必要があったことが認められるものの、鑑定の結果によれば、本件と異なり、被告●●の誤診がなく子宮外妊娠で あるとの確定診断があった上で開腹手術をする場合には、下腹部臓器の病変であることから、臍上部まで切開創が伸びることはほとんどないことが認められると ころ、《証拠略》によれば、原告の腹部には下腹部から臍上部まで長さ約一二、三センチメートル(臍上部は数センチメートル)の手術痕が残ったことが認めら れる。以上の事実を総合し、本件諸般の事情を考慮すると、原告に生じた精神的苦痛を慰謝すべき金額は合計二〇〇万円が相当であると認められる。

===以上引用===

【補足】2012/02/07

2012/01/31

【裁判例】診療契約上の顛末報告義務として、予期しない重篤な後遺症を残した患者に対して診療録等を示しながら説明を行う義務があるとした事例

【要約】
大阪地裁平成16年(ワ)第8288号損害賠償請求事件
大阪地裁平成20年2月21日第23民事部判決


  • 診療契約上のてん末報告義務として、診療録に基づいた報告を必要とした事例。
  • 診療録の紛失によって、予期せぬ重篤な後遺症を被った患者に対し入院診療録ないし手術関連記録を開示できなかったことが、診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行に該当すると認定。
  • 裁判所は慰謝料30万円の支払を命令。
  • 一審で確定。

【ソース】
判例タイムズ1318,173-187,2010.5.1

【判決文より】

・・・以上によれば,転移癌の摘出及びその後の癌の再発防止のための放射線治療により一定の後遺症が残ることは,被告に治療上の過失がなかったとしても生じうる ことであると考えられるものの,原告にとっては予期しない身体障害1級という重篤な後遺症を有するに至っているのであるから,原告が,診療の経過につい て,診療録等に基づいて具体的な詳細を知りたいと考えることには十分な理由がある。

また,診療録を示しててん末の報告を行うことに支障があったとはいえな い。

そうすると,被告は,原告に対し,診療録等に基づいててん末報告を行うべき義務を負っていたものと解すべきである。・・・

・・・被告において,本件入院カルテ〔1〕ないし〔6〕及び本件手術関連記録〔1〕を隠匿して原告に開示しないのではなく,被告主張のとおり,被告において本件入院カルテ〔1〕ないし〔6〕及び本件手術関連記録〔1〕を紛失したために原告に開示できなかったとしても,被告は,本件入院カルテ〔1〕ないし〔6〕及び本件手術関連記録〔1〕を原告に開示できなかったのであるから,診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行責任を免れない。・・・

(3)以上によれば,被告には,本件入院カルテ〔1〕ないし〔6〕及び本件手術関連記録〔1〕を原告に開示できなかった限度で,診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行責任を負うこととなる。

2012/01/26

【刑事】生体腎移植臓器売買事件で医師と妻に実刑判決

【要点】

  • 腎不全だった医師が、妻と共謀の上、2009年10月から2010年4月、ドナー候補紹介の見返りとして暴力団組員に合計1000万円を支払ったが、トラブルで移植は頓挫。
  • 2010年7月に別の暴力団関係者からドナー候補の紹介を受け、謝礼800万円を支払い、同月中に移植を受けた。
  • いずれの候補者とも養子縁組をした。
  • 2012年1月26日、東京地裁は、医師に懲役3年(求刑・懲役4年)、妻に懲役2年6月(求刑同じ)の判決を言い渡した。
【ソース】

【関連事項】
【参照条文】
第十一条  何人も、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくは提供したことの対価として財産上の利益の供与を受け、又はその要求若しくは約束をしてはならない。

 何人も、移植術に使用されるための臓器の提供を受けること若しくは受けたことの対価として財産上の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。

 何人も、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくはその提供を受けることのあっせんをすること若しくはあっせんをしたことの対価として財産上の利益の供与を受け、又はその要求若しくは約束をしてはならない。

 何人も、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくはその提供を受けることのあっせんを受けること若しくはあっせんを受けたことの対価として財産上の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。

 何人も、臓器が前各項の規定のいずれかに違反する行為に係るものであることを知って、当該臓器を摘出し、又は移植術に使用してはならない。

 第一項から第四項までの対価には、交通、通信、移植術に使用されるための臓器の摘出、保存若しくは移送又は移植術等に要する費用であって、移植術に使用 されるための臓器を提供すること若しくはその提供を受けること又はそれらのあっせんをすることに関して通常必要であると認められるものは、含まれない。 

第二十条  第十一条第一項から第五項までの規定に違反した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 前項の罪は、刑法 (明治四十年法律第四十五号)第三条 の例に従う。 


【本日の不明点】

  • 判決全文。
  • 日本移植学会の実態調査の中間報告の一次資料(2012/01/26現在、同学会のウェブサイト上に見あたらない。中間報告発表の記者会見告知資料は掲載されている)。
  • 同実態調査の最終結果。
【コメント】

上記の五学会共同声明では、次のような表現で移植医療関係者の危機感が示されていました。

===以下引用===
臓器移植は臓器の提供を前提とする医療であり、臓器の提供には社会の理解と移植医療に対する信頼が不可欠であります。このたびの腎臓売買による腎臓移植は、移植医療に対する社会の信頼を失わせかねないものであり、きわめて深刻な事態であると認識しております。
【中略】
このような非倫理的かつ違法な移植の根絶に向けて、あらゆる方策をもって全力を尽くす所存です。 
===以上引用===

日本移植学会による実態調査の中間報告については、昨年10月に次のように報じられていました。
  • 過去5年の生体腎移植実態調査を実施し中間報告した。
  • 221施設に実施し、9月末までに129施設から回答があった。
  • 非親族間の移植は8施設10例、養子縁組親子間の移植は4施設5例。
  • ドナーの意思確認時にレシピエントが同席する施設が28施設。
  • 高原史郎同学会理事長が、自発的意思が担保されているか確認の必要があると指摘。
http://mainichi.jp/select/science/news/20111011k0000e040015000c.html(現在はリンク切れ)

本日の判決報道を踏まえて、この中間報告原文を読んで見たかったのですが、本日現在、同学会のサイト等で、この資料を見つけられなかったことが残念です。

(ちなみに、同学会のサイトには、上記五学会共同声明の原文もみあたりませんでした)。

移植医療には生命倫理上の問題が常に関連しますので、社会との対話が重要です。
少なくとも、公表済みの資料などについては、わかりやすい広報がなされていることが望まれると思います。

実態調査の最終報告等については、引き続き注目したいと考えています。










2012/01/25

【事故報道】内視鏡による左腎臓摘出術時に右腎につながる血管を切断


  • 発生時期:2010年3月29日
  • 患者:腎がんの50代男性
  • 医療機関:独立行政法人国立病院機構金沢医療センター
  • 内視鏡による左腎摘出術時に右腎につながる血管を誤って切断。
  • 血管を縫合し、左腎を摘出。術後右腎機能回復せず、約10日後に右腎も摘出。6月までICU管理。11月末退院。透析のための他院通院継続中。
  • 2011年7月、病院が賠償金を支払う内容で示談成立。

【コメント】

報道内容からすると、内視鏡手術の際に血管同定を誤ったのではないかと思われる事案です。

院内で委員会を開催して、調査を実施し、国立病院機構本部には報告を実施したということですので、そうした検討の努力から得られた同種事故の再発防止のための教訓が全国の医療現場にフィードバックできるような対応が望まれます。

同病院は国立病院機構が開設者ですので、医療法施行規則に基づく医療事故情報収集等事業における報告義務医療機関に該当します。

本件についても、この報告義務に基づいて日本医療機能評価機構に報告がなされているはずです。

そこで、以下のサイトで事例情報を探してみました。



期間を2010年3月~11月として検索をかけたところ、ヒットしませんでしたが、期間を設定せず、「腎臓」「治療・処置」という条件で検索したところ、次の事例が出てきました。

事例ID:AA29F56186C840C3F

この事例の発生時期については非公表とされていますので、報道された事案と同一かどうかは特定できませんが、右腎動脈と上腸間膜動脈が切断されてしまったこと、途中で開腹術に切り替えられたこと等、かなり詳しい情報を得ることができます。

末尾に引用しましたので、ご参照下さい。

こうした情報が、同種の事故防止に役立てられることを期待したいです。


===以下引用===

【実施した医療行為の目的】

左腎細胞癌のため、腹腔鏡下左腎摘出術を実施した。

【事故の内容】

患者は検診にて左腎腫瘍を指摘され、手術目的にて入院し、腹腔鏡下にて左腎摘出術の予定となった。腹腔鏡下による手術操作にあたって、左腎静脈の剥離後、その頭側に平行に走る動脈を左腎動脈と認識し(後に右腎動脈と判明)切断した。

切断後、左腎静脈の血行遮断を行ったところ、同静脈の鬱血を認めたため、もう1本腎動脈がある可能性を考え、先に切断した動脈のさらに頭側に位置する動脈を剥離し切断した(後に上腸間膜動脈と判明)。

その後、左腎全体の剥離を進めたところ、本来の左腎動脈の存在に気づき、その動脈周囲からの出血をも認めるに至り開腹術に移行し、左腎摘出術を施行した。誤って遮断・切断した右腎動脈と上腸間膜動脈は、血管吻合にて再建し、吻合後には血流再開を確認している。

術後経過において播種性血管内凝固(DIC)の病態を併発、右腎臓の存在がDICをさらに悪化させる原因であると判断し、右腎臓の機能不全を確認して摘出術を実施した。

その1週間後に腹腔内出血を認め、緊急手術を施行したが明らかな出血源は特定できなかった。その約10日後再び腹腔内出血を認めたため、造影CTにより出血部位の検索を行った。

その結果、上腸間膜動脈吻合部近傍の仮性動脈瘤からの出血が疑われた。出血部位及び患者の一般状態から保存的加療を選択した。

その後、呼吸不全、腎不全、肝機能障害、感染症などの合併症を併発しているが、人工呼吸器による呼吸管理、透析、経管栄養、抗菌剤投与などにより、対応・治療している。

【事故の背景要因の概要】

腹部大動脈左側の剥離操作の際に左後腹膜腔内臓器を残さないように剥離面を意識しすぎた。

そのため大動静脈間まで剥離手術を行ったことを術中認識できていなかったため、誤った動脈を遮断し切断した。

【改善策】

1.背筋群を直視下に確認し、背側に位置する動脈であるという確認操作を最初に行うべきであった。

2.泌尿器科における腹腔鏡下手術は事故後直ちに中止するとともに、その他の診療科における腹腔鏡下手術においても十分な注意を払い実施するよう指示した。

===以上引用===

【ソース】
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=53411
国立病院機構金沢医療センター(2012/01/25現在本件に関する情報掲載なし)

【裁判例】手技上の注意義務違反を認定した事例(胆管結石除去)


  • 那覇地方裁判所平成23年6月21日判決
  • 平成18年(ワ)第1358号損害賠償請求事件
  • 裁判官:平田直人 高橋明宏 早山眞一郎 
  • 出典:判例時報2126号105頁


 ===以下引用===

(3)本件外科手術(除去失敗と嵌頓)について

ア 結石除去の失敗と原因

丙川医師において、経胆のう管法、総胆管切開法の順で、本件外科手術を実施し、砕石鉗子、バルーン等も利用しながら原告の総胆管結石一個の除去を試みたが、これを実現できず、本件外科手術を断念したことは、前記(1)のとおり認められる。

そして、経胆のう管以外の方法で除去できなかった原因について、丙川医師は、経胆のう管法の実施中に結石を押し込めてしまうとともに、胆管内の壁に浮腫 が生じ、結石の嵌頓により、その他の結石処理法が成功しなかった旨を証言しており、これらの証言は、入院診療録中の経過表の記載と照らし合わせても、信用 し得るものである。

したがって、本件外科手術においては、経胆のう管法によって総胆管内の結石を除去することができず、むしろ嵌頓させてしまったため、最終的に結石の除去に成功しなかったものと認められる。

イ 結石嵌頓の原因

丙川医師は、経胆のう管法による採石について、結石を取り出す操作に手間取り、手術自体が通常より長時間かかったこと、手術操作により粘膜面を刺激する ことになり、長く刺激するほど浮腫は出やすくなること、結石を押し込めてしまったことと浮腫が合わさって結石が抜けなくなったことをそれぞれ証言し、他 方、なぜ操作に手間取ったかについては、「…うまく取れなかったとしか言いようがないです」と答えるのみで、何らその原因の説明ができていない。

経胆のう管法は、これを総胆管結石手術における第一選択とする病院も存在する一般的な手法であること、丁原意見書及び戊田意見書がいずれも総胆管切開手法まで行って結石除去ができないのは稀と指摘し、丙川医師自身、自己の経験において同様の結果に陥った症例は一例もなく、最終的に結石除去を断念せざるを 得ない事態は想定していなかった旨証言していることなどを考慮すると、経胆のう管法の実施中に総胆管切開やその他の方法によっても除去できない程度に結石 を嵌頓させてしまったことが手術そのものの困難さなどによるやむを得ない結果であるとは想定し難い。

もとより、結石の把持に手間取り、その結果として結石が嵌頓状態に陥ったことは、丙川医師自身が認めるところである。

そうすると、結石の把持が困難であったことについて、その他の原因の存在が認められない限り、本件外科手術における結石の嵌頓は、経胆のう管法の実施中における丙川医師の操作上の誤りに起因すると推認し得るものである。

そして、被告において、そのような原因関係につき具体的な主張立証を一切せず、また、 丙川医師からも説明がされない状況からすれば、具体的な態様を特定することはできないものの、丙川医師において、操作上の誤りにより、総胆管結石を総胆管 下部に嵌頓させてしまい、その結果として本件外科手術が失敗したものというほかない。

ウ 以上のとおりであるから、原告の主張するその他の過失につき検討するまでもなく、被告の丙川医師には本件外科手術における手技の実施上の過失が認められる。

 ===以上引用===

2012/01/23

日本脳炎とインフルエンザの予防接種を取り違え。トレーの取り違えが原因か。


  • 2011年12月29日、宇部市内の開業医が日本脳炎の予防接種をすべき3歳女児に、誤ってインフルエンザワクチンを接種。
  • 開業医側が気がついて、帰宅後の女児家族に連絡。
  • 日本脳炎ワクチンは誰にも接種されていない。
  • 母親が2012年1月10日に県宇部健康福祉センターに再発防止を電話で要請。
  • 別の児に接種する注射器のトレーとの取り違えが原因か。
  • 宇部市保健医療安全対策会議で検証と再発防止策を協議する予定。


【コメント】
宇部市の報道発表では言及がありませんが、報道によれば、現時点では注射器を載せたトレーの取り違えが原因と想定されているようです。

注射器の取り違えと聞くと、どうしても1999年2月11日に発生した都立広尾病院事件が思い起こされます。この件では、ヘパリン生食とヒビテングルコネート(消毒薬)を同じ処置台の上で同時に準備したことが原因の1つと指摘されています。

今回の件では、いずれも体に接種するものであったという点では都立広尾病院事件と異なっていますが、ワクチンの取り違え事例も以前から報じられています。

日本医師会作成の「医療従事者のための安全対策マニュアル」(平成19年11月)においても、都立広尾病院事件の類例として、様々な医薬品取り違え事故が集約されています。

その中には、麻疹の予防接種時に副作用経験のある患児に、風疹の予防接種のつもりで誤って麻疹の予防接種を施行した例も挙げられています(転帰不明とされていますが、最悪のシナリオとしては、アナフィラキシーショックによる死亡もありえたことが指摘されています)。

文献上では、次のような指摘があるようです。

■峯真人「予防接種する際に遭遇する問題点」母子保健情報59p126-p129,2009

「兄弟での異種ワクチン接種例,複数のワクチン希望者がほぼ同じ時刻に集中した例,問診・診察で否接種となった児の次順番の接種例などで事故がおこりやすく,対象児・カルテ・予診票・母子健康手帳・児に携帯させるワクチン名を記した札などを同時に移動させ,その場で複数者による確認することが必要である。」

今回の件でも、誤接種に至ったワークフローを丁寧に確認し、根本原因分析を踏まえた再発防止策が策定され、その情報が広く周知されることを期待したいと思います。


【ソース】
宇部市:予防接種の誤接種について
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/yama/news/digest/2012/0119/8.html
医療安全推進者ネットワーク:都立・広尾病院医療過誤・事件~経過報告と提言~

【不明点】

  • 宇部市の報道発表中に言及されている”国の定めた「予防接種事故防止マニュアル」”の内容について。

国民生活センターが「美容医療・契約トラブル110番」を開設


  • 国民生活センターが、2012年1月23日から、美容医療のトラブルの専用電話を開設。
  • 1月23日から27日まで無料で実施。受付時間は午前10時から午後4時まで。
  • 電話番号は03-5793-4110。


【コメント】
国民生活センターによる開催告知には、主な相談事例として、次のような事例が掲載されています。

  • 【事例1】無料カウンセリングのつもりで受診。120万円の脂肪溶解注射の契約をし、その日に施術された
  • 【事例2】手術台で手術方法の説明を受け、高額な施術を承諾してしまった包茎手術

包茎手術については、10年以上前から、広告や事前電話では少額の手術料を告げて集客し、診療室に入ってから、「高額のコラーゲン注射の追加が必要ですよ」と告げる方法で、多額のローンをその場で組んでしまうという悪質な事例が報告されています。
国民生活センターの告知を見る限り、そうしたコンプレックス商法が今なお根絶できていないようで、とても残念です。

被害者の多くは、華々しい広告を見て受診し、被害に遭っています。医療法上の広告規制違反には罰則もあるのですが、実際には違反広告が後を絶ちません。

違法な広告で患者を勧誘しているクリニックに受診しないことが大切です。ソースの欄に広告規制とガイドラインへのリンクを張っておきますので、受診前に参照することをお勧めします。

今回の国民生活センターの取り組みが、こうした問題の解決の糸口となることを期待したいです。

【ソース】
国民生活センター「美容医療・契約トラブル110番」の開催について
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120123/t10015461721000.html
厚生労働省:医療法における病院等の広告規制について
厚生労働省:医療広告ガイドライン

2012/01/20

横浜地裁が神奈川県に約7200万円の賠償を命令。県立病院の検査・治療懈怠で44歳男性が心原性ショックで死亡。


  • 2007年11月24日朝、横浜市内の44歳男性が胸痛を主訴として神奈川県立循環器呼吸器病センターに救急搬送され、狭心症との診断で入院。CT検査なし。
  • 11月25日朝、急性大動脈解離による心原性ショックで死亡。
  • 遺族が約1億2300万円の賠償をもとめて横浜地裁に提訴。
  • 2012年1月19日、横浜地裁が横浜市中区の県立病院を開設していた神奈川県に約7200万円の賠償を命令。
  • 狭心症治療薬服用後も痛み消失がなく、急性大動脈解離と思われる所見があったと認定し、CT検査を実施しなかった過失を認定。
  • 救命可能だったとして因果関係も肯定。
【2012/01/23:毎日新聞報道を踏まえて追記・修正しました】


【ソース】
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1201200009/
http://mainichi.jp/area/kanagawa/news/20120120ddlk14040215000c.html
神奈川県立病院機構(2012/01/20現在本件に関する情報掲載なし)。

【備忘】患者さんにわかりやすく説明する必要があることを指摘する条文など

■医療法第1条の4第2項
 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに
当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければなら
ない。

■医師法第23条
 医師は、診療をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保
健の向上に必要な事項の指導をしなければならない。

■保健医療機関及び保険医療養担当規則(昭和三十二年四月三十日厚生省令第十五号)
(療養及び指導の基本準則)
第十三条  保険医は、診療に当つては、懇切丁寧を旨とし、療養上必要な事項は理解し易いように指導しなければならない。 

■患者の権利に関する世界医師会リスボン宣言
7.情報に対する権利
c. 情報は、その患者の文化に適した方法で、かつ患者が理解できる方法で
与えられなければならない。

■日本医師会「医師の職業倫理指針」2008年
p3
「医師が患者を診察したときは患者本人に対して病名を含めた診断内容を告げ、
今後の推移、および検査・治療の内容や方法などについて、患者が理解できるよ
うにやさしく説明する義務がある。」

■インフォームド・コンセントの在り方に関する検討会報告書

2012/01/19

羊水塞栓症によるDICの患者に対する輸血手配が30分程度遅延したことについて、期待権侵害を理由とする慰謝料を認めた事例

大阪地方裁判所平成20年(ワ)第7635号
平成23年7月25日第20民事部判決


【判示抜粋】


患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害の みを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである(最高裁 判所平成21年(受)第65号平成23年2月25日第二小法廷判決・判例時報2108号45頁参照)。


<中略>


前記4(2)〔ア〕の電話連絡の過誤により,輸血の緊急手配が少なくとも30分程度は遅れた点については,輸血の依頼をすれば輸血できる医 療体制が一応備わっている本件病院にとっては,本件病院医師がDICを疑って緊急の輸血手配が必要と判断した際には,薬局の開業時間内外を問わず,医師な いし看護師ら医療従事者において速やかに赤十字血液センター等の血液供給機関に電話連絡ができるように日頃から準備しておくことが,必要不可欠であり,か つ容易であって、基本的な義務と考えられる。


そして,前記4(2)で検討したように,当時の花子の病態にかんがみ,遅くとも19時30分ころの時点では輸 血を開始すべきであったのに対し,上記のように輸血の緊急手配が30分程度遅れることがなければ,赤十字血液センターから本件病院への血液到着は18時 50分ころとなり,30分程度は要するFFPの解凍を経ても,19時30分にはFFPの輸血から開始することが可能であったといってよい。


ところが,丁谷 医師が輸血手配を依頼した時刻には薬局が閉業していたとはいえ,一刻を争う緊急事態に電話連絡の過誤により30分も輸血の手配が遅れ,これによって輸血の 開始も本来あるべき時点から30分も遅れたことは,重過失ともいうべき著しく不適切な措置と評価せざるを得ない。したがって,当時,本件病院医師によって 弛緩出血によるDICを疑われ,可能な限り速やかに輸血されるという治療行為を受けることを期待できた花子は,本件病院医師らの著しく不適切な上記措置に より,そのような期待権を侵害されたものと認めるのが相当である。


併せて,本件における結果が花子の死亡という重大なものであり,上記不適切な措置が花子 の生死を分ける重要かつ緊急な局面で起こっていることを考慮するならば,上記措置は慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価されるので,花子に対す る不法行為を構成するというべきである。

【コメント】
  • 法廷意見として期待権侵害に初めて言及した最高裁平成23年2月25日第二小法廷判決の枠組みに基づいて、期待権侵害による慰謝料を肯定した判決。
  • 慰謝料額を60万円とした。


【ソース】
判例タイムズ1354号192頁

HIV感染を無断で勤務先に通知された看護師が、両病院の開設者を提訴


  • 福岡県内の看護師が、2011年8月に大学病院でHIV陽性と診断された。
  • 検査の10数日後、勤務先の病院から要請を受けて休職となり、11月末に退職。
  • カルテ開示を求めたところ、大学病院から勤務先や他の病院に検査結果が伝達されていたことが判明した。
  • 2012年1月13日までに、福岡県内の地裁支部に約1100万円の賠償を求めて提訴。


【コメント】
以下の日本看護協会の声明でも言及されていますが、スタンダード・プリコーション(標準予防策)で感染が防止できる以上、休職は不要です。医療機関のみならず、一般の職場における感染者の人権を擁護するためにも、医学的な合理性を踏まえた冷静な判断が必要です。

■日本看護協会:HIVに感染した看護職の人権を守りましょう

【ソース】
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/281837

カンガルーケア中の心肺停止で脳障害、松山地裁に提訴


  • 2011年に今治市内の私立医療機関で出生した新生児が、カンガルーケア中に心肺停止となり、脳障害を負ったことについて、2011年1月18日までに、両親らが松山地裁に提訴した。
  • 訴状では、十分な事前説明がないままカンガルーケアを開始し、約30分間両親と新生児だけの状態となり、助産師が戻った際に新生児は一時心肺停止に至ったとのこと。

【コメント】
名古屋大学医学部附属病院における類似の事故では、大学が事故の事実経過と再発防止策を公表しています。
名古屋大学医学部附属病院:カンガルーケア時に発生した事故について

カンガルーケアを実施するのであれば、次のような要件が不可欠であると思います。
1)児が、カンガルーケアの実施を許容できる身体状況であるを医師が確認していること
2)ケア実施中に医療従事者が経過をずっと観察できる体制が確保されていること
3)カンガルーケアの実施中に心肺停止となって重度後遺症等が生じた事例があるといったリスク説明が事前に十分なされた上でなお両親が実施を希望していること  等


 【ソース】
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-01-19_28705/
http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20120119/news20120119730.html

栃木県医事厚生課が平成23年度上半期の医療事故のまとめを公表


  • 栃木県医事厚生課が平成23年度上半期(4月~9月)に県立3病院で起きた医療事故のまとめを公表。
  • レベル3bが10件、レベル4bが1件(がんセンター)。
  • まとめの公表ははじめて。

【コメント】
公表を始めたことは良いことです。
ただ、レベル4bの事案の概要は、県の資料には説明がありませんでした。重大事故の情報を共有し、他の施設での再発防止に生かすには、もう少し工夫が必要になるものと感じました。
また、医師による報告がなかなか集まらないという実情がありますので、報告者の職種毎の件数を事故レベル毎に集計すると、報告の「質」の評価も可能になるはずです。

 【ソース】
栃木県/医療事故等包括公表
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120118-00000067-san-l09

高血圧症治療薬アルマール、名称変更へ

  • 2011年1月10日、大日本住友製薬が高血圧症治療薬「アルマール錠5/錠10」の販売名の変更を厚労省に申請した。
  • 新規名称は、『アロチノロール塩酸塩錠5mg「DSP」/錠10mg「DSP」』。
  • サノフィ・アベンティスの糖尿病治療薬アマリールとの取り違え防止のため。

【コメント】
以前から、アルマール・アマリールは、混同しやすい名称の代表格とされてきました。
ようやくとの感は強いものの、正しい対応と言えます。

【ソース】