2012/03/29

【判例レビュー】債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟の損害の範囲と弁護士費用(労働災害事案)

【ソース】
平成24年02月24日最高裁判所第二小法廷判決

○要旨引用

 労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって,労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。

 そうすると,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。

 したがって、労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである


【コメント】

医療過誤訴訟においても、不法行為構成と診療契約上の債務不履行構成の二通りがあり得ます。

上記判例は労災事故に関するものではありますが、医療過誤訴訟を債務不履行構成に基づいて提起する場合(不法行為構成では消滅時効にかかる場合等)の弁護士費用の扱いについても、あてはまる部分が大きいものと考えられます。

ただし、医療過誤事件における患者側の主張立証責任の重さに照らした場合、債務不履行構成の下でも、不法行為構成の場合と同等の主張立証責任を負う結果となることが妥当なのかどうかについては、患者代理人の側から絶えず問題提起をしていく必要があると考えています。


【参考判例】

昭和44年2月27日最高裁判所第一小法廷判決
(根抵当権の不存在につき少なくとも過失により競売の申立をしたことは不法行為を構成するとして損害賠償を請求した事例)


○要旨引用


 思うに、わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の 余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者 に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。

 従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利 を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一 般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。

 そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行 を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、 右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。


 

【事故報道】呼吸補助装置の酸素ボンベの開栓を怠り酸素供給途絶。直後に患者死亡。所轄署への連絡は6日後。

【ソース】
京都新聞:酸素供給ミス直後に患者死亡 山科の病院 6日後、警察に相談 

【要点】
  • 2012年3月20日午前3時半ころ、愛生会山科病院に肺炎で入院中の70歳代女性に装着された呼吸補助装置のアラーム(ボンベ酸素残量)が鳴り、業者による復旧作業が行われたが、午前4時34分に患者死亡が確認された。
  • 同月19日に業者が酸素漏れの修理を行った際、終了後の開栓を怠った。
  • 病院は業者から不備ありとの報告書を受領したとのこと(※記事では受領時期は不詳)。
  • 同月26日、病院は山科署に事案を電話相談。それ以前の届出なし。
  • 病院コメント「患者は重篤な状態で亡くなったことに違和感はなかった。明確な異状死とは判断していないが、弁護士から医師法に基づき報告した方がいいと言われた」
  • 2012/03/29現在、同病院のウェブサイトに本件の情報なし。
【コメント】

報道されている限りの事実が前提であれば、酸素投与を要する患者に装着された機器の酸素ボンベが、誤って閉栓されたままとなっており、その状態の下で患者が死亡したことになりますので、死亡後速やかに(遅くとも業者からの報告を受けた直後に)医師法21条に基づき所轄の警察署に届出を行うべきケースだったのではないかと考えられます。

日本学術会議が医療関連死の届出先となるべき第三者機関創設を提言してから6年以上が経過しますが、未だに第三者機関創設には至っていないことが、最大の問題と言えます。

【参考資料】

医師法

 第二十一条  医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

第三十三条の二  次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
 第六条第三項、第十八条、第二十条から第二十二条まで又は第二十四条の規定に違反した者 
 
 
【要旨1】
医師法21条にいう死体の「検案」とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい,当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わないと解するのが相当であり,これと同旨の原判断は正当として是認できる。
 
【要旨2】
死体を検案して異状を認めた医師は,自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも,本件届出義務を負うとすることは,憲法38条1項に違反するものではないと解するのが相当である。 
 

 ===以下引用(下線は引用者による)===
3 提言の内容

1)届け出るべき異状死体及び異状死
 

(1)一般的にみた領域的基準
異状死体の届出が、犯罪捜査に端緒を与えるとする医師法第21 条の立法の趣旨からすれば、公安、社会秩序の維持のためにも届出の範囲は領域的に広範であるべきである。すなわち、異状死体とは、
① 純然たる病死以外の状況が死体に認められた場合のほか、
② まったく死因不詳の死体等、
③ 不自然な状況・場所などで発見された死体及び人体の部分等も
これに加えるべきである。
 

(2)医療関連死と階層的基準
いわゆる診療、服薬、注射、手術、看護及び検査などの途上あるいはこれらの直後における死亡をさすものであり、この場合、何をもって異状死体・異状死とするか、その階層的基準が示されなければならない。
① 医行為中あるいはその直後の死亡にあっては、まず明確な過誤・過失があった場合あるいはその疑いがあったときは、純然たる病死とはいえず、届出義務が課せられるべきである。これによ
り、医療者側に不利益を負う可能性があったとしても、医療の独占性と公益性、さらに国民が望む医療の透明性などを勘案すれば届出義務は解除されるべきものではない。
② 広く人の病死を考慮した場合、高齢者や慢性疾患を負う、いわゆる医学的弱者が増加しつつある今日、疾患構造の複雑化などから必ずしも生前に診断を受けている病気・病態が死因になるとは限らず、それに続発する疾患や潜在する病態の顕性化などにより診断に到る間もなく急激に死に到ることなども少なくない。さらに、危険性のある外科的処置等によってのみ救命できることもし
ばしばみられているが、人命救助を目的としたこれら措置によっても、その危険性ゆえに死の転機をとる例もないことではない。
このような場合、その死が担当医師にとって医学的に十分な合理性をもって経過の上で病死と説明できたとしても、自己の医療行為に関わるこの合理性の判断を当該医師に委ねることは適切でない。ここにおいて第三者医師(あるいは医師団)の見解を求め、第三者医師、また遺族を含め関係者(医療チームの一員等)がその死因の説明の合理性に疑義を持つ場合には、異状死・異状死体とすることが妥当である。ここにおける第三者医師はその診療に直接関与しなかった医師(あるいは医師団)とし、その当該病院医師であれ、医師会員であれ、あるいは遺族の指定するセカンド
オピニオン医師であれ差し支えはない。このようなシステムを各病院あるいは医療圏単位で構築することを提言する。
 

2) 医療事故再発防止と被害者救済
いわゆる突然死又は医療事故死、広く医療関連死の問題を総合的に解決するための第三者機関を設置し、医療関連死が発生した場合、その過誤・過失を問うことなく、この第三者機関に届け出ることとすべきである。この第三者機関は、単に異状死のみならず、医療行為に関連した重大な後遺症をも含めた広範な事例を収集するものとすべきであり、この上に立って医療事故の科学的分析と予防策樹立を図るものとする。このような構想は、すでに日本内科学会、日本外科学会、日本病理学会、日本医学学会の共同声明でも提唱されている。(資料6)
この第三者機関は、事例の集積と原因分析を通じ、医療事故の再発防止に資するとともに、医学的に公正な裁定を確保し、被害者側への有効で迅速な救済措置の実施のために裁判以外の紛争解決促進制度(ADR)の導入や労働者災害補償保険制度に類似した被害補償制度の構築などを
図るべきものとする。このような機関の設立は、医療行政担当機関、法曹界、医療機関、被害者側及び損害保険機関等の協力によって進められることが望ましい。今日、国民の医療に関して、このような第三者機関が存在しないことは、わが国医療体制の脆弱性を表すものであり、日本学術会議は第三者機関のあるべき姿について、さらなる総合的検討をなすとともに、関係機関に対し、その実現のためのイニシアティヴを強く期待し、ここに提言するものである。

 ===以上引用===

2012/03/27

【判決レビュー】病院内浴室で熱傷を負った高齢女性入院患者が死亡した事例(千葉地裁平成23年10月14日判決)

【ソース】
 平成21年(ワ)第1651号 損害賠償請求事件(医療)
【要点】
  • 両変形性膝関節症の手術目的で入院した当時79歳の女性が、平成20年11月6日(手術前日)午後2時に入浴のため浴室に入ったところ、約40分後に浴槽内で全身熱傷の状態で発見された。翌日死亡。
  • 浴室に入った時点で浴槽は空であった。発見時、給湯栓から55-56℃の湯が出たままとなっていた。 浴槽の栓は閉まっていなかったが、患者の体が排水口をふさいでおり、20-30cmの深さで湯が溜まっていた。
  • 患者に認知症はなく、判断力に問題はなかったが、患者は給湯栓を開くと55-56℃の湯が出ることを知らず、浴室まで付き添った看護師もそのことを説明していなかった。
  • 裁判所は、①給湯給水設備の使用方法及び熱傷を負うおそれのある熱湯が出ることを説明しなかった点、②浴室に入ってから30分が経過した後も安全確認を行わなかった点について病院の過失を認定した。
  • 被告は、午後3時38分の血液検査でAST、LDH、CPKの上昇が、午後6時5分にはトロポニンTの上昇が認められたこと等を理由として、急性心筋梗塞を発症して意識喪失に至って転倒し、その結果熱傷を負ったと主張したが、裁判所は、上記過失と熱傷による患者の死亡の因果関係を肯定した。
  • 被告は、患者の心筋梗塞発症の結果への寄与による過失相殺類推適用を主張したが、裁判所は採用せず。
  • 裁判所は、病院に対し、1925万円と遅延損害金の支払いを命令。内訳は慰謝料1600万円(近親者慰謝料含む)、葬儀費150万円、弁護士費用175万円。

【コメント】

こうした痛ましい事故の再発を防止するには、患者が利用する設備に、こうした熱湯の出る設備があること自体を改善する必要があると考えられます。本欄をお読みになった医療関係者の方には、自院内の浴室の給湯栓の状況をご確認いただければと思います。

【医薬品副作用】医薬品医療機器総合機構が患者からの医薬品副作用報告のオンライン受付を開始

【ソース】
医薬品医療機器総合機構(PMDA)患者副作用報告
厚生労働省: (独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)による患者からの医薬品副作用報告の試行開始について(お知らせ)


【要点】

2012/03/26

【書類送検】塩化カリウム製剤を希釈せずに点滴した准看護師を書類送検。

【ソース】
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120315k0000m040050000c.html

【要点】
  • 2010年1月23日、今市病院(日光市)に入院中の88歳女性の低カリウム血症に対し、准看護師が塩化カリウムを希釈すべきところ原液を点滴。
  • 同年1月27日に患者は心不全で死亡。
  • 病院は直後にミスを説明し、補償を終えている。
  • 栃木県警今市署は、准看護師を業務上過失致死容疑で宇都宮地検に書類送検。
【参考情報】

医薬品医療機器総合機構:医療安全情報19:カリウム(K)製剤の誤投与について


【終末期医療】島根大学病院が「事前要望書」のリーフレットを報道発表

【ソース】
http://www.med.shimane-u.ac.jp/hospital/houdou/houdou120312.html

【要点】
  • 島根大学医学部附属病院は、平成20年に、「医の倫理委員会」に諮り、「事前要望書」の仕組みを作成した。
  • 同病院は、そのリーフレットを作成し、2012年3月12日に報道発表した。
  • リーフレットによると「事前要望書」とは、「現在の医学では回復の見込みがなく、治療について自分の意思表示ができないような状態になったとき、自分にしてほしくない治療を文書で伝えておくものです。」と説明されている。

【提訴報道】筋ジストロフィーの痰による窒息とパルスオキシメーターによる監視のあり方について

【ソース】
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=55781

【要点】
  • 2011年8月16日、国立病院機構山形病院に短期入所中の筋ジストロフィーの男児(9歳)が痰を詰まらせて窒息、心肺停止を経て意識障害残存。
  • 自宅用の簡易型パルスオキシメーターを装着していたため、ナースステーションで監視ができなかった。
  • 2011年2月22日、両親らが約3200万円の賠償を求めて山形地裁に提訴。病院用の機器を使用する義務ありと主張。
  • 病院側は医療過誤性を否定するコメント。

2012/03/23

【行政処分制度】「行政処分の考え方」初改正。不正請求厳罰化。

【ソース】
厚生労働省:「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」の改正について

【要点】
  • 2012年3月4日開催の医道審議会医道分科会において、「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」が改正された。
  •  診療報酬の不正請求により保険医等の取消処分を受けた事案については、当該不正請求を行ったという事実に着目し、原則として、不正額の多寡に関わらず、一定の処分内容とするとされた。
  • 保険医登録の取消処分においては、不正請求額の多寡にかかわらず、取消期間が一定となっていること等を踏まえて改正された。
  • そのほかは従前どおり。
  • 2002年12月に「考え方」が示されて以来の初の改正。

2012/03/05

【行政処分報道】刑事事件有罪判決のない2件の医療過誤を理由として、国が同一医師に対する戒告処分を決定。

【ソース】
http://www.asahi.com/national/update/0305/TKY201203050082.html

【要点】
  • 2012年3月5日、三重県四日市市の産婦人科医(71歳)に対し、戒告処分が決定。3月19日発効。
  •  2011年9月に、同医師に対しては、出産後の女性が死亡した件(業務上過失致死罪で罰金刑が確定)について戒告処分が下されていた。
  • 今回は、同医師が起こした脳性麻痺事故と死産事故の2件(いずれも刑事事件における有罪判決はない)についてあらたに戒告処分。再教育措置も再度行われる。
  • 刑事事件以外の医療事故を理由とする行政処分は本件までに3件のみ。
【関連情報】
===以下引用===
 医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
 戒告
 三年以内の医業の停止
 免許の取消し
===以上引用===
===以下引用===
 第四条  次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
 罰金以上の刑に処せられた者
 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
===以上引用===
===以下引用===
医師法第7条第2項及び歯科医師法第7条第2項に規定する行政処分については、医師、歯科医師が相対的欠格事由に該当する場合又は医師、歯科医師としての 品位を損するような行為があった場合に、医道の観点からその適性等を問い、厚生労働大臣はその免許を取り消し、又は期間を定めて業務の停止を命ずるもので ある。
【中略】
国民の医療に対する信頼確保に資するため、刑事事件とならなかった医療過誤についても、医療を提供する体制や行為時点における医療の水準などに照らして、 明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱うものとし、具体的な運用方法やその改善方策について、今後早急に検討を加え ることとする。  
【中略】
6)    業務上過失致死(致傷)
(2)    医療過誤(業務上過失致死、業務上過失傷害等)
 人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する医師、歯科医師は、その業務の性質に照し、危険防止の為に医師、歯科医師として要求される最善の注意義務を尽くすべきものであり、その義務を怠った時は医療過誤となる。
 司法処分においては、当然、医師としての過失の度合い及び結果の大小を中心として処分が判断されることとなる。
 行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、医師、歯科医師として通常求められる注意義務が欠けているという事案については、重めの処分とする。
 なお、病院の管理体制、医療体制、他の医療従事者における注意義務の程度や生涯学習に努めていたかなどの事項も考慮して、処分の程度を判断する。
===以上引用===
※下線は引用者による。

【コメント】

行政処分制度は、「医道の観点」から医師等の適性等を問う制度であり、制度上は、「医師としての品位を損するような行為のあったとき」も処分の対象とされています。このように刑事処分と行政処分は、目的の異なる制度です。

しかしながら、現実には、医療過誤に関する医師の行政処分は、基本的に刑事処分の後追いという形で運用されており、行政処分としての独自性はほぼ失われています。
今回の産婦人科医への処分は、刑事事件とは別個に国が事実認定を行って下したものという点で、刑事処分の後追いに留まらないものと言えます。

もっとも、現状の医道審議会は、多くの事案の事実認定を行い得るような体制にはありません。また、医療事故の網羅的な届出・報告制度も確立していません。報告義務が課せられているのは、特定機能病院等の一部医療機関のみであり、しかも義務を負う病院間での届出実施状況には大きな差異があります。

※参考

したがって、今後も刑事処分の後追いとして行政処分制度が運営されていくという流れが変わるとは思えません。同様の事故を起こしたにも関わらず、処分がされるケースもあれば、処分されないケースもあるという、不平等・不透明な状況は、今後も続くことが予想されます。

こうした不透明な状況を健全なものとするためには、まず、医療事故事案をきちんと把握し、どのような事故に対し、どのような処分や再教育が必要なのかを丁寧に検討していく必要があります。
そのためにも、日本医学会加盟主要19学会共同声明の提案するような、医療事故の届出制度が早期に創設される必要がありますが、残念ながら今なお実現の目途は立っていません。

大変に残念です。 

2012/03/03

【示談報道】心臓カテーテル検査による仮性動脈瘤形成→神経圧迫

【ソース】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120228-00000035-kana-l14

【要点】
  • 2010年8月、藤沢市民病院で慢性腎不全の64歳女性が心臓カテーテル検査を受けた。
  • 右上腕のカテ挿入部を圧迫止血。
  • 検査後不調を訴えるも4度の診察で動脈瘤を発見できず、救急搬送後の超音波検査で6cm×3cmの動脈瘤が神経を圧迫し右手指に障害が発生したことが判明した。
  • 藤沢市は、女性に270万円を賠償する。2011年2月27日公表。

【類似事例など】

名古屋地方裁判所平成12年5月26日判決(平成3年(ワ)295)
  • 鼠径部から刺入した事例。止血不充分、出血・血腫形成を経て大腿神経麻痺。
  •  病院に対し、約1100万円の賠償を命令。判決確定。
  • 判例タイムズ1092号254頁。