2012/05/15

【産科医療補償制度】第2回報告書公表。

【ソース】
産科医療保障制度:第2回 産科医療補償制度 再発防止に関する報告書


【要点など】

○補償対象となった児のうち、2011年12月末までに事例公表された79件(2009年出生76件、2010年出生3件。p36)を対象として分析実施。

○数量的・疫学的分析とテーマ分析(吸引分娩・常位胎盤早期剥離の保健指導・診療録記載)を実施。

○産科合併症(p23:表3-II-20)
  切迫早産25
  常位胎盤早期剥離 20
  子宮内感染 15
  子宮破裂 5
  臍帯脱出 5
  妊娠高血圧症候群 5
  妊娠糖尿病 2
  上記に該当なし 21

○分娩経過(p23:表3-II-21)
  経腟分娩 29
    正常分娩 16
    吸引分娩 11
    鉗子分娩  2
  帝王切開 50
    予定帝王切開 1
    緊急帝王切開 49

○臍帯動脈血pH(p30:表3-II-44)より
  検査実施なし 33
  検査実施あり 46
    7.1以上 14
    7.1未満 32

○吸引分娩について
  79例中19件で実施あり(うち12例はクリステレル胎児圧出法併用)。
  帝切術を要したもの 8件
  総牽引時間20分超 3件
  吸引回数6回以上 2件

○クリステレル胎児圧出法に関する提言(p50)

(3)クリステレル胎児圧出法の併用は、胎児の状態が悪化する可能性があることを認識する。
 クリステレル胎児圧出法は、数回の施行で分娩に至ると考えられるときのみ併用し、漫然と施行しないことが重要である。


 ○常位胎盤早期剥離の保健指導
  背景
   妊娠高血圧症候群 2
   蛋白尿 9
   切迫早産 11
   早産 6
   前期破水 1
   子宮内感染 1
   喫煙(うち妊娠中も喫煙)  5(2)
   出生時Light for datesであった児 1
   標準的でない妊婦健診受診 1
   上記に該当なし 1


  常位胎盤早期剥離の直接の原因は明らかになっていないが、常位胎盤早期剥離の予防のた
めに、その危険因子に関する様々な研究がなされており、「産婦人科診療ガイドライン-産科編2011」には、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離の既往、切迫早産(前期破水)、外傷(交通事故など)が危険因子として記されている。その解説には、常位胎盤早期剥離の発症に関して、妊娠高血圧症候群に多いことや、常位胎盤早期剥離の既往がある妊産婦で10倍多いことなどが記載されている。その他、日本産科婦人科学会周産期委員会周産期登録事業の報告によると、妊娠高血圧症候群の妊産婦は常位胎盤早期剥離の発症率が4.45倍とされている。


○診療録の記載

1)産科医療関係者に対する提言
(1)「 産科医療補償制度の原因分析・再発防止に係る診療録・助産録および検査データ等の記載事項」を参考に診療録等を記載する。
(2) 特に、異常出現時の母児の状態、および分娩誘発・促進の処置や急速遂娩施行の判断と根拠や内診所見、新生児の蘇生状況については詳細に記載する。
 原因分析および再発防止が適正に行われるため、また医療安全の観点からも診療に関する情報が正しく十分に記載されることが重要である。一見して分娩経過が分かるように、パルトグラムに診療情報を記載するなど1ヶ所に全ての診療情報を記載する工夫も必要である。


※参考 p70

産科医療補償制度の原因分析・再発防止に係る診療録・助産録および検査データ等の記載事項
Ⅰ.診療録・助産録
1.外来診療録・助産録
1)妊産婦に関する基本情報
(1)氏名、年齢、身長、非妊娠時体重、嗜好品(飲酒、喫煙)、アレルギー等
(2)既往歴
(3)妊娠分娩歴:婚姻歴、妊娠・分娩・流早産回数、分娩様式、帝王切開の既往等
2)妊娠経過記録
(1)分娩予定日:決定方法、不妊治療の有無
(2) 健診記録:健診年月日、妊娠週数、子宮底長、腹囲、血圧、尿生化学検査(糖、蛋白)、浮腫、体重、胎児心拍数、内診所見、問診(特記すべき主訴)、保健指導等
(3)母体情報:産科合併症の有無、偶発合併症の有無等
(4) 胎児および付属物情報:胎児数、胎位、発育、胎児形態異常、胎盤位置、臍帯異常、羊水量、胎児健康状態(胎動、胎児心拍数等)等
(5)転院の有無:転送先施設名等
2.入院診療録・助産録
1)分娩のための入院時の記録
(1) 母体所見:入院日時、妊娠週数、身体所見(身長、体重、血圧、体温等)、問診(主訴)、内診所見、陣痛の有無、破水の有無、出血の有無、保健指導等
(2)胎児所見:心拍数(ドプラまたは分娩監視装置の記録)、胎位等
(3)その他:本人・家族への説明内容等
2)分娩経過
(1) 母体所見:陣痛(開始時刻、状態)、破水(日時、羊水の性状、自然・人工)、出血、内診所見、血圧・体温等の一般状態、食事摂取、排泄等
(2)胎児所見:心拍数(異常所見およびその対応を含む)、回旋等
(3) 分娩誘発・促進の有無:器械的操作(ラミナリア法、メトロイリーゼ法等)、薬剤(薬剤の種類、投与経路、投与量等)等
(4)その他:観察者の職種、付き添い人の有無等
3)分娩記録
娩出日時、娩出方法(経腟自然分娩、クリステレル圧出、吸引分娩、鉗子分娩、帝王切開)、分娩所要時間、羊水混濁、胎盤娩出様式、胎盤・臍帯所見、出血量、会陰所見、無痛分娩の有無等
 
4)産褥記録
母体の経過:血圧・体温等の一般状態、子宮復古状態、浮腫、乳房の状態、保健指導等
5)新生児記録
(1) 新生児出生時情報:出生体重、身長、頭囲、胸囲、性別、アプガースコア、体温、脈拍・呼吸
等の一般状態、臍帯動脈血ガス分析値※注、出生時蘇生術の有無(酸素投与、マスク換気、気管挿管、胸骨圧迫、薬剤の使用等)等
※注:個別審査対象の児に必要であり、他の児についても検査することが望ましい。
(2) 診断:新生児仮死(重症・中等症)、胎便吸引症候群(MAS)、呼吸窮迫症候群(RDS)、頭蓋
内出血(ICH)、頭血腫、先天異常、低血糖、高ビリルビン血症、感染症、新生児けいれん等
(3)治療:人工換気、薬剤の投与(昇圧剤、抗けいれん剤等)等
(4) 退院時の状態:身体計測値、栄養方法、哺乳状態、臍の状態、退院年月日、新生児搬送の有無、搬送先施設名等
(5)新生児代謝スクリーニング結果
(6)新生児に関する保健指導
3.その他
分娩経過表(パルトグラム)、手術記録、看護記録、患者に行った説明の記録と同意書、他の医療機関からの紹介状等
Ⅱ.検査データ
外来および入院中に実施した血液検査・分娩監視装置等の記録(コピー可)