平成23年7月25日第20民事部判決
【判示抜粋】
患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害の みを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである(最高裁 判所平成21年(受)第65号平成23年2月25日第二小法廷判決・判例時報2108号45頁参照)。
<中略>
前記4(2)〔ア〕の電話連絡の過誤により,輸血の緊急手配が少なくとも30分程度は遅れた点については,輸血の依頼をすれば輸血できる医 療体制が一応備わっている本件病院にとっては,本件病院医師がDICを疑って緊急の輸血手配が必要と判断した際には,薬局の開業時間内外を問わず,医師な いし看護師ら医療従事者において速やかに赤十字血液センター等の血液供給機関に電話連絡ができるように日頃から準備しておくことが,必要不可欠であり,か つ容易であって、基本的な義務と考えられる。
そして,前記4(2)で検討したように,当時の花子の病態にかんがみ,遅くとも19時30分ころの時点では輸 血を開始すべきであったのに対し,上記のように輸血の緊急手配が30分程度遅れることがなければ,赤十字血液センターから本件病院への血液到着は18時 50分ころとなり,30分程度は要するFFPの解凍を経ても,19時30分にはFFPの輸血から開始することが可能であったといってよい。
ところが,丁谷 医師が輸血手配を依頼した時刻には薬局が閉業していたとはいえ,一刻を争う緊急事態に電話連絡の過誤により30分も輸血の手配が遅れ,これによって輸血の 開始も本来あるべき時点から30分も遅れたことは,重過失ともいうべき著しく不適切な措置と評価せざるを得ない。したがって,当時,本件病院医師によって 弛緩出血によるDICを疑われ,可能な限り速やかに輸血されるという治療行為を受けることを期待できた花子は,本件病院医師らの著しく不適切な上記措置に より,そのような期待権を侵害されたものと認めるのが相当である。
併せて,本件における結果が花子の死亡という重大なものであり,上記不適切な措置が花子 の生死を分ける重要かつ緊急な局面で起こっていることを考慮するならば,上記措置は慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価されるので,花子に対す る不法行為を構成するというべきである。
【コメント】
- 法廷意見として期待権侵害に初めて言及した最高裁平成23年2月25日第二小法廷判決の枠組みに基づいて、期待権侵害による慰謝料を肯定した判決。
- 慰謝料額を60万円とした。
【ソース】
判例タイムズ1354号192頁
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