2012/03/29

【事故報道】呼吸補助装置の酸素ボンベの開栓を怠り酸素供給途絶。直後に患者死亡。所轄署への連絡は6日後。

【ソース】
京都新聞:酸素供給ミス直後に患者死亡 山科の病院 6日後、警察に相談 

【要点】
  • 2012年3月20日午前3時半ころ、愛生会山科病院に肺炎で入院中の70歳代女性に装着された呼吸補助装置のアラーム(ボンベ酸素残量)が鳴り、業者による復旧作業が行われたが、午前4時34分に患者死亡が確認された。
  • 同月19日に業者が酸素漏れの修理を行った際、終了後の開栓を怠った。
  • 病院は業者から不備ありとの報告書を受領したとのこと(※記事では受領時期は不詳)。
  • 同月26日、病院は山科署に事案を電話相談。それ以前の届出なし。
  • 病院コメント「患者は重篤な状態で亡くなったことに違和感はなかった。明確な異状死とは判断していないが、弁護士から医師法に基づき報告した方がいいと言われた」
  • 2012/03/29現在、同病院のウェブサイトに本件の情報なし。
【コメント】

報道されている限りの事実が前提であれば、酸素投与を要する患者に装着された機器の酸素ボンベが、誤って閉栓されたままとなっており、その状態の下で患者が死亡したことになりますので、死亡後速やかに(遅くとも業者からの報告を受けた直後に)医師法21条に基づき所轄の警察署に届出を行うべきケースだったのではないかと考えられます。

日本学術会議が医療関連死の届出先となるべき第三者機関創設を提言してから6年以上が経過しますが、未だに第三者機関創設には至っていないことが、最大の問題と言えます。

【参考資料】

医師法

 第二十一条  医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

第三十三条の二  次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
 第六条第三項、第十八条、第二十条から第二十二条まで又は第二十四条の規定に違反した者 
 
 
【要旨1】
医師法21条にいう死体の「検案」とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい,当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わないと解するのが相当であり,これと同旨の原判断は正当として是認できる。
 
【要旨2】
死体を検案して異状を認めた医師は,自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも,本件届出義務を負うとすることは,憲法38条1項に違反するものではないと解するのが相当である。 
 

 ===以下引用(下線は引用者による)===
3 提言の内容

1)届け出るべき異状死体及び異状死
 

(1)一般的にみた領域的基準
異状死体の届出が、犯罪捜査に端緒を与えるとする医師法第21 条の立法の趣旨からすれば、公安、社会秩序の維持のためにも届出の範囲は領域的に広範であるべきである。すなわち、異状死体とは、
① 純然たる病死以外の状況が死体に認められた場合のほか、
② まったく死因不詳の死体等、
③ 不自然な状況・場所などで発見された死体及び人体の部分等も
これに加えるべきである。
 

(2)医療関連死と階層的基準
いわゆる診療、服薬、注射、手術、看護及び検査などの途上あるいはこれらの直後における死亡をさすものであり、この場合、何をもって異状死体・異状死とするか、その階層的基準が示されなければならない。
① 医行為中あるいはその直後の死亡にあっては、まず明確な過誤・過失があった場合あるいはその疑いがあったときは、純然たる病死とはいえず、届出義務が課せられるべきである。これによ
り、医療者側に不利益を負う可能性があったとしても、医療の独占性と公益性、さらに国民が望む医療の透明性などを勘案すれば届出義務は解除されるべきものではない。
② 広く人の病死を考慮した場合、高齢者や慢性疾患を負う、いわゆる医学的弱者が増加しつつある今日、疾患構造の複雑化などから必ずしも生前に診断を受けている病気・病態が死因になるとは限らず、それに続発する疾患や潜在する病態の顕性化などにより診断に到る間もなく急激に死に到ることなども少なくない。さらに、危険性のある外科的処置等によってのみ救命できることもし
ばしばみられているが、人命救助を目的としたこれら措置によっても、その危険性ゆえに死の転機をとる例もないことではない。
このような場合、その死が担当医師にとって医学的に十分な合理性をもって経過の上で病死と説明できたとしても、自己の医療行為に関わるこの合理性の判断を当該医師に委ねることは適切でない。ここにおいて第三者医師(あるいは医師団)の見解を求め、第三者医師、また遺族を含め関係者(医療チームの一員等)がその死因の説明の合理性に疑義を持つ場合には、異状死・異状死体とすることが妥当である。ここにおける第三者医師はその診療に直接関与しなかった医師(あるいは医師団)とし、その当該病院医師であれ、医師会員であれ、あるいは遺族の指定するセカンド
オピニオン医師であれ差し支えはない。このようなシステムを各病院あるいは医療圏単位で構築することを提言する。
 

2) 医療事故再発防止と被害者救済
いわゆる突然死又は医療事故死、広く医療関連死の問題を総合的に解決するための第三者機関を設置し、医療関連死が発生した場合、その過誤・過失を問うことなく、この第三者機関に届け出ることとすべきである。この第三者機関は、単に異状死のみならず、医療行為に関連した重大な後遺症をも含めた広範な事例を収集するものとすべきであり、この上に立って医療事故の科学的分析と予防策樹立を図るものとする。このような構想は、すでに日本内科学会、日本外科学会、日本病理学会、日本医学学会の共同声明でも提唱されている。(資料6)
この第三者機関は、事例の集積と原因分析を通じ、医療事故の再発防止に資するとともに、医学的に公正な裁定を確保し、被害者側への有効で迅速な救済措置の実施のために裁判以外の紛争解決促進制度(ADR)の導入や労働者災害補償保険制度に類似した被害補償制度の構築などを
図るべきものとする。このような機関の設立は、医療行政担当機関、法曹界、医療機関、被害者側及び損害保険機関等の協力によって進められることが望ましい。今日、国民の医療に関して、このような第三者機関が存在しないことは、わが国医療体制の脆弱性を表すものであり、日本学術会議は第三者機関のあるべき姿について、さらなる総合的検討をなすとともに、関係機関に対し、その実現のためのイニシアティヴを強く期待し、ここに提言するものである。

 ===以上引用===

0 件のコメント:

コメントを投稿