2012/02/27

【備忘】診療記録開示申請書に理由欄を設けることは不適切。

【ソース】

国立大学附属病院長会議:国立大学附属病院における診療情報の提供等に関する指針(第2版):7項(3)の1:2006年3月31日

 ===以下引用===
診療記録の開示を求めようとする者は、書面(申請書)により病院長に申請するものとする。なお、患者等の自由な申立てを阻害しないため、申立ての理由の記載を要求することは不適切である。
 ===以上引用===


厚生労働省:診療情報の提供等に関する指針(平成22年10月22日改訂版)
※平成15年9月12日付医政発第0912001号の一部改正を平成22年9月17日医政発0917第15号によって各都道府県に通知。

 ===以下引用===
診療記録の開示を求めようとする者は、医療機関の管理者が定めた方式に従って、医療機関の管理者に対して申し立てる。なお、申立の方式は書面による申立てとすることが望ましいが、患者等の自由な申立てを阻害しないため、開示等の求めに係る申立て書面に理由欄を設けることなどにより申立ての理由の記載を要求すること、申立ての理由を尋ねることは不適切である。
 ===以上引用===

【コメント】

患者さんやご家族から、「カルテ開示を申請する際に、理由の記載を求められたがどうしたらよいか?」という相談をいただくことがあります。

従前より、「診療情報提供等に関する指針」等においては、申立の理由の記載を要求することは、自由な申立を阻害するおそれがあるから不適切とされていました。

しかしながら、実際には、理由の確認を求められるケースが後を絶たないため、平成22年9月に、厚生労働省は同指針を一部改正し、申立書面に理由欄を設けることは不適切であることを明文化しました。

それから1年半が経過しますが、残念ながら、今なお、国立大学附属病院などにおいても、依然として理由欄が撤廃されないままとなっているケースが散見されます。

当欄をご覧になった医療従事者の方には、自院でどのような書式を用いているのか、今一度見直してみることをお勧めします。

2012/02/23

【和解報道】北九州市が大動脈解離の診断遅延事案で遺族と和解へ。

【ソース】

【要点】
  • 2009年4月に呼吸困難を訴える31歳男性が北九州市立八幡病院を受診。心因性過呼吸と診断され、翌日に背部痛を訴えるも再度心因性として精神科を紹介される。4日後に症状が悪化し、他院で大動脈解離疑いと指摘されるも死亡。
  • 2010年、市は CT検査による診断可能性があったとして過失を認め謝罪。
  • 2011年2月23日からの市議会に、裁判所和解案(賠償金約6300万円の支払)を受け入れる議案を提出する。
【同種事例】

【カンガルーケア】日本産婦人科医会が会員に文書による注意喚起を実施。

【ソース】
日本産婦人科医会出生直後に行う「カンガルーケア」について

【要点】
  • 平成23年12月付けで、日本産婦人科医会が寺尾俊彦会長名で、同会会員に対し、出生直後に行うカンガルーケア実際の際の安全管理について、注意を喚起した。
  • 要点は、次の4点。
  1. 選択・除外基準を含む施設毎のマニュアルを作成すること
  2. 母親と家族への十分な事前説明を経た上で希望を確認すること 
  3. 医療者による十分な観察を行こと(母による観察の限界の認識)
  4. 医療者が新生児蘇生に熟練していること
  • 原文(抜粋)は以下のとおり。



 ===以下引用===

1. 適 応 基 準・除外基準等を含めて、「カンガルーケア・ガイドライン」( カンガルーケア・ガイドラインワーキンググループ編;h t t p : / / m i n d s . j c q h c . o r . j p / s t c / 0 0 6 8 / 0 0 6 8 _ C o n t e n t s T o p . h t m l )等を参考にした施設ごとの実施マニュアルを作成する。
 

2. 母 親 ( お よ び 家 族 ) に 対 し て 、 新 生 児 の 顔 色 や 呼 吸 等 の 観 察 の重要性および新生児のポジショニング等を含めた十分な事前説明を行い、母親( および家族) が「カンガルーケア」を理解し希望していることを確認した上で実施する。
 

3. 母 親 ( お よ び 家 族 ) が 新 生 児 の 観 察 を 自 力 の み で 行 う こ と に は限界があるため、必ず医療側も十分な観察を行う。
 

4. 「カンガルーケア」実施に携わる医療者は新生児蘇生に熟練している必要がある。

  ===以上引用===

【参考サイト】

2012/02/22

【産科補償】平成23年12月までに252件を補償対象に認定。

【ソース】

【要点など】

<補償認定数など>
  • 平成23年12月までに274件が審査され、252件が補償対象として認定された。10件が補償対象外、9件が再申請可能、3件が継続審査中。
  • 年度別では、平成21年生まれは、審査177件中認定158件。平成22年生まれは、審査94件中認定91件、平成23年生まれは審査3件中認定3件。
  • 平成21年生まれの総数が確定するのは平成26年末を過ぎて審査が完了した段階になってから。 
 <補償事例内訳など>
  • 補償対象252件中、一般審査(在胎週数33週以上かつ2000g以上)による認定が233件(約92.5%)、個別審査(在胎週数28週以上と所定基準)による認定が19件(約7.5%)。
  • 補償対象外19件中、先天要因または新生児期要因によるとされたものが4件、 週数28週以上の個別審査において補償対象基準をを満たさないものが6件。
  • 252件における申請から補償金支払いまでの平均期間は73日。
<損害賠償等との関係など>
  • 252件中、2件(0.8%)については訴訟を経ずに損害賠償が確定し、補償制度との調整が完了した。1件は補償申請前に賠償責任が確定していた。
  • 他に訴訟中が3件、提訴前交渉中が5件、証拠保全のみが8件。
  • 252件中平成23年12月末までに87件について原因分析報告書を送付済。87件中賠償請求等が行われた事案は8件(9.2%)で、うち2件は報告書送付後に賠償請求がなされた。 
  • 同制度(事務局?運営組織?)では「現在のところ、原因分析報告書が損害賠償請求等に影響をしているとは必ずしも言えない」と分析している。
<「原因分析に関するアンケート」結果など>
  • 2011年7月末から8月に、平成22年の報告書送付例20事例の保護者と分娩機関(搬送元4機関を含む)に送付。分娩機関24機関中17機関(70%)、保護者20事例中8例(40%)から回答。
  • 分娩機関17回答中、報告書にとても納得できたのは4機関、だいたい納得できたのは12機関、あまり納得できなかったのは1機関。
 <その他>
  • 報告書全文版の開示請求はこれまでに59件。 
  • 同一分娩機関における複数事案目の分析の結果、当初jの事案から改善がみられないと判断された場合や、1事案目であっても繰り返されるおそれがあると判断された場合は、原因分析委員会と運営組織の連名で報告書に別紙を添付して、一層の改善を求めることとしている。
  • 半年後を目途に改善事項等の取り組み状況の報告を求めている。

【不明点など】
  • 日本医師会医師損害賠償責任保険制度が把握する脳性麻痺紛争事案数の変化の有無について。
  • 補償制度発足後の上記賠償保険制度の財政状況の変化の有無について。
 【コメント】
  • 分娩時脳性麻痺事案がほぼ100%捕捉できることになった結果、個別事例の情報だけではわからなかった全体像の把握が進みつつあるように感じられます。ただ、制度自体の評価を行うには、もう少し推移を見守る必要もありそうです。

  • 事例が増えてきた結果、原因分析のため事実整理等の事務処理がなかなか進まなくなっているのではないかと感じられる場面も出てきています。正しい原因分析を行うためには、カルテから適切な事実認定が行われていることが不可欠です。その事実認定作業を丁寧かつ迅速に行いうるだけの事務体制が整っているのかどうかという点に、個人的には関心があります。

  • 同一分娩機関における同種事故の再発のおそれに対して、運営組織と原因分析委員会から別紙という形で改善を促す体制が整ったことは、過去の歴史を振り返ると、非常に画期的であると言えます。こうした形で「事故に学ぶ医療文化」がより根付いていくことを期待したいです。

  •  なお、岡井崇原因分析委員長のヒアリングの資料が添付されていますが、その末尾に、「産科医療補償制度-成果の達成目標-」とのスライドがありました。そこには、達成目標として「1.脳性麻痺訴訟の減少 2.脳性麻痺発生頻度の低下」と書かれています。本制度の成果は、あくまで脳性麻痺発生頻度の低下=医療の質の向上=の達成の有無によって評価すべきであると思います(訴訟の減少はあくまで発生頻度低下によってもたらされる附随的結果にすぎないと考えるべきです)。岡井委員長も、脳性麻痺発生頻度の低下を目標の2つのうちの1つに挙げていますので、医療の質の向上で評価するということを無視しているわけではないことは理解できますが、訴訟の減少が達成目標の第一に挙げられていることについては、違和感が残りました。



2012/02/20

【示談報道】腰部脊柱管症に対する手術時の神経損傷で肛門周辺の感覚が鈍麻。

【ソース】
http://mainichi.jp/area/yamagata/news/20120218ddlk06040271000c.html

【要点】

  • 山形市立病院済生館が70歳代男性に758万円の賠償金支払いへ。2月市議会に議案提出予定。
  • 2010年3月、70代男性の腰部脊柱管狭窄症に対する手術(骨削除)時に神経損傷。
  • 肛門周辺の感覚鈍麻残存。
  • 術後、病院は謝罪し示談交渉を継続していた。
【不明点等】
  • 術式の詳細、神経損傷部位等。

【判決報道】脳動脈瘤コイル塞栓術と開頭クリッピング術の比較説明の不備とコイル塞栓術の手技上の過誤を認定。

【ソース】
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012021790201603.html
http://www.asahi.com/national/update/0217/NGY201202170030.html
http://www.nikkei.com/news/local/article/g=96958A9C93819496E3E5E2E2838DE3E5E2E0E0E2E3E0919CEAE2E2E2;n=9694E3E4E3E0E0E2E2EBE0E0E4E4
http://mainichi.jp/life/health/medical/news/20120218k0000m040101000c.html

【要点】

  • 名古屋地裁平成24年2月17日判決(堀内照美裁判長)。
  • 藤田保健衛生大学病院開設者に対し、約1億7000万円の賠償を命令。
  • 2006年4月、50代女性に脳動脈瘤があることが判明。
  • 2006年8月に脳動脈瘤コイル塞栓術を実施した際に、脳動脈瘤から出血。
  • くも膜下出血、脳梗塞により左半身麻痺が残存。夫が退職して介護を担当。
  • 開頭術の方がリスクが少ないことの説明を欠いたと認定。説明を尽くしていれば開頭術を選択したと認定。
  • カテーテル操作の手技上の過誤も認定。
【報道上の不明点等】
  • 判決原文未入手。2012/02/20現在最高裁サイトに掲載なし。
  • 瘤の大きさ、部位。
  • 脳動脈瘤損傷に至る機序の詳細。
【コメント】

日本医療機能評価機構の報告事例検索サイトにおいて、「事故事例報告」「脳動脈瘤」「塞栓術」で検索をかけたところ、8事例がヒットしました。

そのうち、術中に瘤の破裂や虚血性合併症を来した事例について、事案の概要を以下に転載しておきます(下線は当ブログ筆者によるもの)。

個別事例の個々の分析だけではなく、同種事例を集積し、それらを比較検討することによって、原因分析が促進されるはずです。

実際に産科医療保障制度においてはそういった総合的なレビューが行われています。未破裂脳動脈瘤治療中の重大有害事象についても、そうした網羅的に集積された事例に対する総合的なレビューがなされることを期待したいです。

 【実施した医療行為の目的】
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対して、瘤内塞栓術+母血管閉塞術 水頭症に対して脳室ドレナージ術 重症くも膜下出血に対してバルビツレート療法
【事故の内容】
右椎骨動脈瘤に対し、全身麻酔下にコイル塞栓術を施行すべく、動脈瘤内にマイクロカテーテルを誘導していた。その際にカテーテルが瘤内で跳ねるような挙動を示し、瘤外(血管外)に逸脱、直後の造影で造影剤の漏出を認め、動脈瘤の破裂及びくも膜下出血を来したと判断した。
【事故の背景要因の概要】
不明
【改善策】
不明

【実施した医療行為の目的】
未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術

【事故の内容】
前交通動脈未破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術中。5本目のコイルを挿入中に、瘤内に留置してあったマイクロカテーテルが移動 し、瘤壁を穿孔、くも膜下出血の状態となった。止血のためへパリンをリバース、薬剤による降圧を行い、自然に止血されたことを確認。この時点で頭痛、嘔気 を訴えるものの、患者の神経症状に変化なし。より完全な止血を目指して、全身状態の安定化のための全身麻酔の導入を行い、塞栓術を続行。良好な塞栓が得ら れたこと、再出血をしていないことを確認し、塞栓術を終了。くも膜下出血の排出のための髄液腰椎ドレナージ追加。血圧管理のための全身麻酔2日間の継続を 行った。意識清明、神経症状の悪化なし。脳血管れん縮の予防治療を行った。

【事故の背景要因の概要】
カテーテルが不安定で容易に瘤外に脱出しやすい状態であったため、通常よりカテーテルを瘤内にやや強めに押し込んだことで、カテーテルが予想以上に移動したと考えられる。

【改善策】
常にカテーテルにかかる圧力を確認しながら、最新の注意でカテーテル操作を行うように心がける。 合併症発生の術前説明を十分に行う。



【実施した医療行為の目的】
動脈瘤に対して、開頭手術による加療が困難と判断されたため、ステント併用による脳動脈瘤コイル塞栓術(血管内治療)を実施した。
【事故の内容】
全身麻酔のもと手術を施行。血管の蛇行が強く、カテーテルの誘導やステントの誘導に難渋した。最終的に、ステントを病変部ま で誘導することができず、また、更なる治療の継続は血管穿孔などの致死的な合併症をきたす可能性が高いと判断されたため、手術を断念せざるを得なかった。 麻酔覚醒後に、右顔面麻痺、右上下肢麻痺が出現していることが分かった。症状発見後直ちに頭部CTを施行した。その結果,出血性病変は否定されたため,虚血性合併症が生じたものと判断した。
【事故の背景要因の概要】
詳細は不明であるが術後要因の検討を行い、現段階ではカテーテルの複数本の同時使用によって、脳血流の低下が長時間にわたり起こったためと推察している。
【改善策】
術式の検討。


【実施した医療行為の目的】
右椎骨動脈瘤に対するコイル塞栓術(全身麻酔下)

【事故の内容】
右椎骨動脈瘤に対し、全身麻酔下でコイル塞栓術治療時に汎用しているマイクロカテーテルを用いて同治療を施行。動脈瘤内にマ イクロカテーテルを誘導していた。その際にカテーテルが瘤内で跳ねるような挙動を示し、瘤外(血管外)に逸脱。直後の造影で、造影剤の漏出を認め、動脈瘤 の破裂及びくも膜下出血を来したと判断した。

【事故の背景要因の概要】
カテーテルを動脈瘤内に誘導中に動脈瘤内での跳ね。

【改善策】
不可抗力的な事例である。今後同治療を行う際、綿密な計画、慎重な操作をこれまでと同様に行う。

【実施した医療行為の目的】
未破裂脳動脈瘤に対する根治術

【事故の内容】
左内頸動脈未破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術中、動脈瘤からの出血あり。脆弱な動脈瘤壁の破裂によるものと考えられた。出血 に対する止血処置(へパリンのリバース、バルーンによる閉塞、コイルの追加充填)にて止血を得たが、この動脈瘤に対する根治術が必要と考え、緊急手術施行 (開頭外減圧術)。

【事故の背景要因の概要】
推測だが、脳動脈瘤の壁が非常に脆弱だった可能性がある。

【改善策】
予測不能な術中破裂であった。

2012/02/07

【示談報道】大腸切除術後の縫合不全による腹膜炎で死亡

【概要】

  • 72歳男性が2011年4月1日に鳥取県立厚生病院で直腸癌に対する大腸切除術を受けた。
  • 4月6日午前2時ころに急変、CT検査で放射線科医は腹膜炎の疑いを指摘。
  • 主治医は、下痢等から感染性腸炎と判断し、投薬実施。
  • 4月7日朝に心肺停止、開腹したところ縫合不全による汎発性腹膜炎と判明。
  • 4月9日に死亡。
  • 当初は過失なしと評価。
  • 遺族からの賠償請求を受け調査し、2011年11月に過失を認めた。
  • 約1800万円の賠償で合意。
【ソース】
http://mainichi.jp/area/tottori/news/20120203ddlk31040516000c.html

【コメント】

報道された事実を前提とすると、遺族の指摘がなければそのままになっていた可能性のある件ということになります。

手術等の侵襲性の医療行為の後に生じた不作為型の注意義務違反は、「合併症」というカテゴリーにくくられてしまって、事故として拾い上げられないままとなっていることが少なくありません。

遺族からの指摘がなくとも、検討すべき事案については自発的に十分なレビューが行われる仕組みが必要です。しかし、現実には医療機関毎あるいは事案毎にまちまちとなっており、大変残念です。

2012/02/01

【判決報道】子宮外妊娠で死亡、受診指示上の過失を認定

【要約】

  • 2007年10月3日に当時36歳の女性が妊娠の疑いで岡崎市民病院を受診。
  • 患者帰宅後に出た検査結果から、医師が子宮外妊娠の可能性に気がついた。
  • 10月4日朝、女性から腹痛を訴える電話あり、11:00受診予定となった。
  • 女性が来院せず、病院から自宅に複数回の電話。13:00につながり腹痛で動けないと言われ、救急車要請。
  • 5日後に出血性ショックで死亡。
  • 2012年1月27日、名古屋地裁が病院側に約6700万円の賠償を命令。
  • 腹痛の訴えの電話があった時点で、子宮外妊娠の可能性が高いことや危険性を具体的に伝えて、できるだけ早く来院するよう勧めるべきだったと認定。
【ソース】

【不明点】
  • 判決全文(2012/02/01現在裁判所サイトに掲載なし)
  • 10月3日の患者帰宅後に出た「検査結果」の具体的内容(検査名、所見等)
【子宮外妊娠に関する類似裁判例】

東京地裁平成5年8月30日判決(判例時報1503号108頁)
  • 平成元年7月16日、当時20代半ばの女性が腹痛を訴えて受診。最終月経は5月8日から14日間。内診実施、エコーで胎嚢写らず。夜間のため妊娠反応約検査は実施せず。
  • 7月17日、痛み持続あり、再度受診。内診実施、血液検査と尿一般検査実施。
  • 7月24日、3度目の受診。未だ生理なし。同日夜にショック状態、搬送先で開腹手術→左卵管間質部妊娠による卵管破裂と判明。
  • 8月8日退院、8月18日まで通院。
  • 判決は、7月17日及び7月24日に尿中hCG検査を実施すべきと認定。
  • 激痛や死亡の危険にさらされたこと、いずれにせよ手術必要であったが早期診断により臍上部まで切開創が伸びることは回避されたと考えられること等を理由として、慰謝料200万円の支払を命令。
===以下、東京地裁平成5年8月30日判決から引用===

被告●●が、七月一七日の時点でhCG検査を実施しておれば高い確率で陽性反応を得ることができ、右陽性反応が得られた場合、前日実施した超音波検査の結果や不正性器出血、下腹部痛等の症状と合わせて、原告が子宮外妊娠であると強く疑い得たにもかかわらず、被告●●は、子宮外妊娠の検査に必要不可欠とされているhCG検査を実施しなかったばかりか、内診に異常がなく、不正性器出血もないと誤診したため、被告●●は、原告が子宮外妊娠であるとの疑いを持つことがなく、七月一七日の時点では骨盤腹膜炎と、また、同月二四日には、卵巣機能不全と誤診したものである。

そのため、右誤診がなければ、子宮外妊娠の疑いをもってなすべき処置、すなわち原告を入院させ、更に入念な検査(内視鏡による検査等)を実施し、診断が確定次第開腹して卵管を摘出することができたにもかかわらず、右処置を怠ったため、原告の卵管が破裂するに至ったものであると認めることができる。

したがって、被告●●は、不法行為に基づき、原告に生じた本件損害を賠償する責任を負う。

<中略>

前記認定事実によれば、原告は、被告●●の誤診の結果、長期間激しい下腹部痛に悩まされ、とりわけ七月二四日の午後一〇時ころ、卵管が破裂し卵管摘出手術が行われるまで下腹部の激痛に苦しみ、死亡する危険さえもあったこと、また、《証拠略》によれば、子宮外妊娠の確定診断があった場合の一般的な治療方法としては開腹手術によるしかないことが認められ、したがって、同被告の前記過失がなかったとしてもいずれにせよ右手術を実施する必要があったことが認められるものの、鑑定の結果によれば、本件と異なり、被告●●の誤診がなく子宮外妊娠で あるとの確定診断があった上で開腹手術をする場合には、下腹部臓器の病変であることから、臍上部まで切開創が伸びることはほとんどないことが認められると ころ、《証拠略》によれば、原告の腹部には下腹部から臍上部まで長さ約一二、三センチメートル(臍上部は数センチメートル)の手術痕が残ったことが認めら れる。以上の事実を総合し、本件諸般の事情を考慮すると、原告に生じた精神的苦痛を慰謝すべき金額は合計二〇〇万円が相当であると認められる。

===以上引用===

【補足】2012/02/07