2012/01/31

【裁判例】診療契約上の顛末報告義務として、予期しない重篤な後遺症を残した患者に対して診療録等を示しながら説明を行う義務があるとした事例

【要約】
大阪地裁平成16年(ワ)第8288号損害賠償請求事件
大阪地裁平成20年2月21日第23民事部判決


  • 診療契約上のてん末報告義務として、診療録に基づいた報告を必要とした事例。
  • 診療録の紛失によって、予期せぬ重篤な後遺症を被った患者に対し入院診療録ないし手術関連記録を開示できなかったことが、診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行に該当すると認定。
  • 裁判所は慰謝料30万円の支払を命令。
  • 一審で確定。

【ソース】
判例タイムズ1318,173-187,2010.5.1

【判決文より】

・・・以上によれば,転移癌の摘出及びその後の癌の再発防止のための放射線治療により一定の後遺症が残ることは,被告に治療上の過失がなかったとしても生じうる ことであると考えられるものの,原告にとっては予期しない身体障害1級という重篤な後遺症を有するに至っているのであるから,原告が,診療の経過につい て,診療録等に基づいて具体的な詳細を知りたいと考えることには十分な理由がある。

また,診療録を示しててん末の報告を行うことに支障があったとはいえな い。

そうすると,被告は,原告に対し,診療録等に基づいててん末報告を行うべき義務を負っていたものと解すべきである。・・・

・・・被告において,本件入院カルテ〔1〕ないし〔6〕及び本件手術関連記録〔1〕を隠匿して原告に開示しないのではなく,被告主張のとおり,被告において本件入院カルテ〔1〕ないし〔6〕及び本件手術関連記録〔1〕を紛失したために原告に開示できなかったとしても,被告は,本件入院カルテ〔1〕ないし〔6〕及び本件手術関連記録〔1〕を原告に開示できなかったのであるから,診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行責任を免れない。・・・

(3)以上によれば,被告には,本件入院カルテ〔1〕ないし〔6〕及び本件手術関連記録〔1〕を原告に開示できなかった限度で,診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行責任を負うこととなる。

2012/01/26

【刑事】生体腎移植臓器売買事件で医師と妻に実刑判決

【要点】

  • 腎不全だった医師が、妻と共謀の上、2009年10月から2010年4月、ドナー候補紹介の見返りとして暴力団組員に合計1000万円を支払ったが、トラブルで移植は頓挫。
  • 2010年7月に別の暴力団関係者からドナー候補の紹介を受け、謝礼800万円を支払い、同月中に移植を受けた。
  • いずれの候補者とも養子縁組をした。
  • 2012年1月26日、東京地裁は、医師に懲役3年(求刑・懲役4年)、妻に懲役2年6月(求刑同じ)の判決を言い渡した。
【ソース】

【関連事項】
【参照条文】
第十一条  何人も、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくは提供したことの対価として財産上の利益の供与を受け、又はその要求若しくは約束をしてはならない。

 何人も、移植術に使用されるための臓器の提供を受けること若しくは受けたことの対価として財産上の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。

 何人も、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくはその提供を受けることのあっせんをすること若しくはあっせんをしたことの対価として財産上の利益の供与を受け、又はその要求若しくは約束をしてはならない。

 何人も、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくはその提供を受けることのあっせんを受けること若しくはあっせんを受けたことの対価として財産上の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。

 何人も、臓器が前各項の規定のいずれかに違反する行為に係るものであることを知って、当該臓器を摘出し、又は移植術に使用してはならない。

 第一項から第四項までの対価には、交通、通信、移植術に使用されるための臓器の摘出、保存若しくは移送又は移植術等に要する費用であって、移植術に使用 されるための臓器を提供すること若しくはその提供を受けること又はそれらのあっせんをすることに関して通常必要であると認められるものは、含まれない。 

第二十条  第十一条第一項から第五項までの規定に違反した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 前項の罪は、刑法 (明治四十年法律第四十五号)第三条 の例に従う。 


【本日の不明点】

  • 判決全文。
  • 日本移植学会の実態調査の中間報告の一次資料(2012/01/26現在、同学会のウェブサイト上に見あたらない。中間報告発表の記者会見告知資料は掲載されている)。
  • 同実態調査の最終結果。
【コメント】

上記の五学会共同声明では、次のような表現で移植医療関係者の危機感が示されていました。

===以下引用===
臓器移植は臓器の提供を前提とする医療であり、臓器の提供には社会の理解と移植医療に対する信頼が不可欠であります。このたびの腎臓売買による腎臓移植は、移植医療に対する社会の信頼を失わせかねないものであり、きわめて深刻な事態であると認識しております。
【中略】
このような非倫理的かつ違法な移植の根絶に向けて、あらゆる方策をもって全力を尽くす所存です。 
===以上引用===

日本移植学会による実態調査の中間報告については、昨年10月に次のように報じられていました。
  • 過去5年の生体腎移植実態調査を実施し中間報告した。
  • 221施設に実施し、9月末までに129施設から回答があった。
  • 非親族間の移植は8施設10例、養子縁組親子間の移植は4施設5例。
  • ドナーの意思確認時にレシピエントが同席する施設が28施設。
  • 高原史郎同学会理事長が、自発的意思が担保されているか確認の必要があると指摘。
http://mainichi.jp/select/science/news/20111011k0000e040015000c.html(現在はリンク切れ)

本日の判決報道を踏まえて、この中間報告原文を読んで見たかったのですが、本日現在、同学会のサイト等で、この資料を見つけられなかったことが残念です。

(ちなみに、同学会のサイトには、上記五学会共同声明の原文もみあたりませんでした)。

移植医療には生命倫理上の問題が常に関連しますので、社会との対話が重要です。
少なくとも、公表済みの資料などについては、わかりやすい広報がなされていることが望まれると思います。

実態調査の最終報告等については、引き続き注目したいと考えています。










2012/01/25

【事故報道】内視鏡による左腎臓摘出術時に右腎につながる血管を切断


  • 発生時期:2010年3月29日
  • 患者:腎がんの50代男性
  • 医療機関:独立行政法人国立病院機構金沢医療センター
  • 内視鏡による左腎摘出術時に右腎につながる血管を誤って切断。
  • 血管を縫合し、左腎を摘出。術後右腎機能回復せず、約10日後に右腎も摘出。6月までICU管理。11月末退院。透析のための他院通院継続中。
  • 2011年7月、病院が賠償金を支払う内容で示談成立。

【コメント】

報道内容からすると、内視鏡手術の際に血管同定を誤ったのではないかと思われる事案です。

院内で委員会を開催して、調査を実施し、国立病院機構本部には報告を実施したということですので、そうした検討の努力から得られた同種事故の再発防止のための教訓が全国の医療現場にフィードバックできるような対応が望まれます。

同病院は国立病院機構が開設者ですので、医療法施行規則に基づく医療事故情報収集等事業における報告義務医療機関に該当します。

本件についても、この報告義務に基づいて日本医療機能評価機構に報告がなされているはずです。

そこで、以下のサイトで事例情報を探してみました。



期間を2010年3月~11月として検索をかけたところ、ヒットしませんでしたが、期間を設定せず、「腎臓」「治療・処置」という条件で検索したところ、次の事例が出てきました。

事例ID:AA29F56186C840C3F

この事例の発生時期については非公表とされていますので、報道された事案と同一かどうかは特定できませんが、右腎動脈と上腸間膜動脈が切断されてしまったこと、途中で開腹術に切り替えられたこと等、かなり詳しい情報を得ることができます。

末尾に引用しましたので、ご参照下さい。

こうした情報が、同種の事故防止に役立てられることを期待したいです。


===以下引用===

【実施した医療行為の目的】

左腎細胞癌のため、腹腔鏡下左腎摘出術を実施した。

【事故の内容】

患者は検診にて左腎腫瘍を指摘され、手術目的にて入院し、腹腔鏡下にて左腎摘出術の予定となった。腹腔鏡下による手術操作にあたって、左腎静脈の剥離後、その頭側に平行に走る動脈を左腎動脈と認識し(後に右腎動脈と判明)切断した。

切断後、左腎静脈の血行遮断を行ったところ、同静脈の鬱血を認めたため、もう1本腎動脈がある可能性を考え、先に切断した動脈のさらに頭側に位置する動脈を剥離し切断した(後に上腸間膜動脈と判明)。

その後、左腎全体の剥離を進めたところ、本来の左腎動脈の存在に気づき、その動脈周囲からの出血をも認めるに至り開腹術に移行し、左腎摘出術を施行した。誤って遮断・切断した右腎動脈と上腸間膜動脈は、血管吻合にて再建し、吻合後には血流再開を確認している。

術後経過において播種性血管内凝固(DIC)の病態を併発、右腎臓の存在がDICをさらに悪化させる原因であると判断し、右腎臓の機能不全を確認して摘出術を実施した。

その1週間後に腹腔内出血を認め、緊急手術を施行したが明らかな出血源は特定できなかった。その約10日後再び腹腔内出血を認めたため、造影CTにより出血部位の検索を行った。

その結果、上腸間膜動脈吻合部近傍の仮性動脈瘤からの出血が疑われた。出血部位及び患者の一般状態から保存的加療を選択した。

その後、呼吸不全、腎不全、肝機能障害、感染症などの合併症を併発しているが、人工呼吸器による呼吸管理、透析、経管栄養、抗菌剤投与などにより、対応・治療している。

【事故の背景要因の概要】

腹部大動脈左側の剥離操作の際に左後腹膜腔内臓器を残さないように剥離面を意識しすぎた。

そのため大動静脈間まで剥離手術を行ったことを術中認識できていなかったため、誤った動脈を遮断し切断した。

【改善策】

1.背筋群を直視下に確認し、背側に位置する動脈であるという確認操作を最初に行うべきであった。

2.泌尿器科における腹腔鏡下手術は事故後直ちに中止するとともに、その他の診療科における腹腔鏡下手術においても十分な注意を払い実施するよう指示した。

===以上引用===

【ソース】
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=53411
国立病院機構金沢医療センター(2012/01/25現在本件に関する情報掲載なし)

【裁判例】手技上の注意義務違反を認定した事例(胆管結石除去)


  • 那覇地方裁判所平成23年6月21日判決
  • 平成18年(ワ)第1358号損害賠償請求事件
  • 裁判官:平田直人 高橋明宏 早山眞一郎 
  • 出典:判例時報2126号105頁


 ===以下引用===

(3)本件外科手術(除去失敗と嵌頓)について

ア 結石除去の失敗と原因

丙川医師において、経胆のう管法、総胆管切開法の順で、本件外科手術を実施し、砕石鉗子、バルーン等も利用しながら原告の総胆管結石一個の除去を試みたが、これを実現できず、本件外科手術を断念したことは、前記(1)のとおり認められる。

そして、経胆のう管以外の方法で除去できなかった原因について、丙川医師は、経胆のう管法の実施中に結石を押し込めてしまうとともに、胆管内の壁に浮腫 が生じ、結石の嵌頓により、その他の結石処理法が成功しなかった旨を証言しており、これらの証言は、入院診療録中の経過表の記載と照らし合わせても、信用 し得るものである。

したがって、本件外科手術においては、経胆のう管法によって総胆管内の結石を除去することができず、むしろ嵌頓させてしまったため、最終的に結石の除去に成功しなかったものと認められる。

イ 結石嵌頓の原因

丙川医師は、経胆のう管法による採石について、結石を取り出す操作に手間取り、手術自体が通常より長時間かかったこと、手術操作により粘膜面を刺激する ことになり、長く刺激するほど浮腫は出やすくなること、結石を押し込めてしまったことと浮腫が合わさって結石が抜けなくなったことをそれぞれ証言し、他 方、なぜ操作に手間取ったかについては、「…うまく取れなかったとしか言いようがないです」と答えるのみで、何らその原因の説明ができていない。

経胆のう管法は、これを総胆管結石手術における第一選択とする病院も存在する一般的な手法であること、丁原意見書及び戊田意見書がいずれも総胆管切開手法まで行って結石除去ができないのは稀と指摘し、丙川医師自身、自己の経験において同様の結果に陥った症例は一例もなく、最終的に結石除去を断念せざるを 得ない事態は想定していなかった旨証言していることなどを考慮すると、経胆のう管法の実施中に総胆管切開やその他の方法によっても除去できない程度に結石 を嵌頓させてしまったことが手術そのものの困難さなどによるやむを得ない結果であるとは想定し難い。

もとより、結石の把持に手間取り、その結果として結石が嵌頓状態に陥ったことは、丙川医師自身が認めるところである。

そうすると、結石の把持が困難であったことについて、その他の原因の存在が認められない限り、本件外科手術における結石の嵌頓は、経胆のう管法の実施中における丙川医師の操作上の誤りに起因すると推認し得るものである。

そして、被告において、そのような原因関係につき具体的な主張立証を一切せず、また、 丙川医師からも説明がされない状況からすれば、具体的な態様を特定することはできないものの、丙川医師において、操作上の誤りにより、総胆管結石を総胆管 下部に嵌頓させてしまい、その結果として本件外科手術が失敗したものというほかない。

ウ 以上のとおりであるから、原告の主張するその他の過失につき検討するまでもなく、被告の丙川医師には本件外科手術における手技の実施上の過失が認められる。

 ===以上引用===

2012/01/23

日本脳炎とインフルエンザの予防接種を取り違え。トレーの取り違えが原因か。


  • 2011年12月29日、宇部市内の開業医が日本脳炎の予防接種をすべき3歳女児に、誤ってインフルエンザワクチンを接種。
  • 開業医側が気がついて、帰宅後の女児家族に連絡。
  • 日本脳炎ワクチンは誰にも接種されていない。
  • 母親が2012年1月10日に県宇部健康福祉センターに再発防止を電話で要請。
  • 別の児に接種する注射器のトレーとの取り違えが原因か。
  • 宇部市保健医療安全対策会議で検証と再発防止策を協議する予定。


【コメント】
宇部市の報道発表では言及がありませんが、報道によれば、現時点では注射器を載せたトレーの取り違えが原因と想定されているようです。

注射器の取り違えと聞くと、どうしても1999年2月11日に発生した都立広尾病院事件が思い起こされます。この件では、ヘパリン生食とヒビテングルコネート(消毒薬)を同じ処置台の上で同時に準備したことが原因の1つと指摘されています。

今回の件では、いずれも体に接種するものであったという点では都立広尾病院事件と異なっていますが、ワクチンの取り違え事例も以前から報じられています。

日本医師会作成の「医療従事者のための安全対策マニュアル」(平成19年11月)においても、都立広尾病院事件の類例として、様々な医薬品取り違え事故が集約されています。

その中には、麻疹の予防接種時に副作用経験のある患児に、風疹の予防接種のつもりで誤って麻疹の予防接種を施行した例も挙げられています(転帰不明とされていますが、最悪のシナリオとしては、アナフィラキシーショックによる死亡もありえたことが指摘されています)。

文献上では、次のような指摘があるようです。

■峯真人「予防接種する際に遭遇する問題点」母子保健情報59p126-p129,2009

「兄弟での異種ワクチン接種例,複数のワクチン希望者がほぼ同じ時刻に集中した例,問診・診察で否接種となった児の次順番の接種例などで事故がおこりやすく,対象児・カルテ・予診票・母子健康手帳・児に携帯させるワクチン名を記した札などを同時に移動させ,その場で複数者による確認することが必要である。」

今回の件でも、誤接種に至ったワークフローを丁寧に確認し、根本原因分析を踏まえた再発防止策が策定され、その情報が広く周知されることを期待したいと思います。


【ソース】
宇部市:予防接種の誤接種について
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/yama/news/digest/2012/0119/8.html
医療安全推進者ネットワーク:都立・広尾病院医療過誤・事件~経過報告と提言~

【不明点】

  • 宇部市の報道発表中に言及されている”国の定めた「予防接種事故防止マニュアル」”の内容について。

国民生活センターが「美容医療・契約トラブル110番」を開設


  • 国民生活センターが、2012年1月23日から、美容医療のトラブルの専用電話を開設。
  • 1月23日から27日まで無料で実施。受付時間は午前10時から午後4時まで。
  • 電話番号は03-5793-4110。


【コメント】
国民生活センターによる開催告知には、主な相談事例として、次のような事例が掲載されています。

  • 【事例1】無料カウンセリングのつもりで受診。120万円の脂肪溶解注射の契約をし、その日に施術された
  • 【事例2】手術台で手術方法の説明を受け、高額な施術を承諾してしまった包茎手術

包茎手術については、10年以上前から、広告や事前電話では少額の手術料を告げて集客し、診療室に入ってから、「高額のコラーゲン注射の追加が必要ですよ」と告げる方法で、多額のローンをその場で組んでしまうという悪質な事例が報告されています。
国民生活センターの告知を見る限り、そうしたコンプレックス商法が今なお根絶できていないようで、とても残念です。

被害者の多くは、華々しい広告を見て受診し、被害に遭っています。医療法上の広告規制違反には罰則もあるのですが、実際には違反広告が後を絶ちません。

違法な広告で患者を勧誘しているクリニックに受診しないことが大切です。ソースの欄に広告規制とガイドラインへのリンクを張っておきますので、受診前に参照することをお勧めします。

今回の国民生活センターの取り組みが、こうした問題の解決の糸口となることを期待したいです。

【ソース】
国民生活センター「美容医療・契約トラブル110番」の開催について
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120123/t10015461721000.html
厚生労働省:医療法における病院等の広告規制について
厚生労働省:医療広告ガイドライン

2012/01/20

横浜地裁が神奈川県に約7200万円の賠償を命令。県立病院の検査・治療懈怠で44歳男性が心原性ショックで死亡。


  • 2007年11月24日朝、横浜市内の44歳男性が胸痛を主訴として神奈川県立循環器呼吸器病センターに救急搬送され、狭心症との診断で入院。CT検査なし。
  • 11月25日朝、急性大動脈解離による心原性ショックで死亡。
  • 遺族が約1億2300万円の賠償をもとめて横浜地裁に提訴。
  • 2012年1月19日、横浜地裁が横浜市中区の県立病院を開設していた神奈川県に約7200万円の賠償を命令。
  • 狭心症治療薬服用後も痛み消失がなく、急性大動脈解離と思われる所見があったと認定し、CT検査を実施しなかった過失を認定。
  • 救命可能だったとして因果関係も肯定。
【2012/01/23:毎日新聞報道を踏まえて追記・修正しました】


【ソース】
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1201200009/
http://mainichi.jp/area/kanagawa/news/20120120ddlk14040215000c.html
神奈川県立病院機構(2012/01/20現在本件に関する情報掲載なし)。

【備忘】患者さんにわかりやすく説明する必要があることを指摘する条文など

■医療法第1条の4第2項
 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに
当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければなら
ない。

■医師法第23条
 医師は、診療をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保
健の向上に必要な事項の指導をしなければならない。

■保健医療機関及び保険医療養担当規則(昭和三十二年四月三十日厚生省令第十五号)
(療養及び指導の基本準則)
第十三条  保険医は、診療に当つては、懇切丁寧を旨とし、療養上必要な事項は理解し易いように指導しなければならない。 

■患者の権利に関する世界医師会リスボン宣言
7.情報に対する権利
c. 情報は、その患者の文化に適した方法で、かつ患者が理解できる方法で
与えられなければならない。

■日本医師会「医師の職業倫理指針」2008年
p3
「医師が患者を診察したときは患者本人に対して病名を含めた診断内容を告げ、
今後の推移、および検査・治療の内容や方法などについて、患者が理解できるよ
うにやさしく説明する義務がある。」

■インフォームド・コンセントの在り方に関する検討会報告書

2012/01/19

羊水塞栓症によるDICの患者に対する輸血手配が30分程度遅延したことについて、期待権侵害を理由とする慰謝料を認めた事例

大阪地方裁判所平成20年(ワ)第7635号
平成23年7月25日第20民事部判決


【判示抜粋】


患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害の みを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである(最高裁 判所平成21年(受)第65号平成23年2月25日第二小法廷判決・判例時報2108号45頁参照)。


<中略>


前記4(2)〔ア〕の電話連絡の過誤により,輸血の緊急手配が少なくとも30分程度は遅れた点については,輸血の依頼をすれば輸血できる医 療体制が一応備わっている本件病院にとっては,本件病院医師がDICを疑って緊急の輸血手配が必要と判断した際には,薬局の開業時間内外を問わず,医師な いし看護師ら医療従事者において速やかに赤十字血液センター等の血液供給機関に電話連絡ができるように日頃から準備しておくことが,必要不可欠であり,か つ容易であって、基本的な義務と考えられる。


そして,前記4(2)で検討したように,当時の花子の病態にかんがみ,遅くとも19時30分ころの時点では輸 血を開始すべきであったのに対し,上記のように輸血の緊急手配が30分程度遅れることがなければ,赤十字血液センターから本件病院への血液到着は18時 50分ころとなり,30分程度は要するFFPの解凍を経ても,19時30分にはFFPの輸血から開始することが可能であったといってよい。


ところが,丁谷 医師が輸血手配を依頼した時刻には薬局が閉業していたとはいえ,一刻を争う緊急事態に電話連絡の過誤により30分も輸血の手配が遅れ,これによって輸血の 開始も本来あるべき時点から30分も遅れたことは,重過失ともいうべき著しく不適切な措置と評価せざるを得ない。したがって,当時,本件病院医師によって 弛緩出血によるDICを疑われ,可能な限り速やかに輸血されるという治療行為を受けることを期待できた花子は,本件病院医師らの著しく不適切な上記措置に より,そのような期待権を侵害されたものと認めるのが相当である。


併せて,本件における結果が花子の死亡という重大なものであり,上記不適切な措置が花子 の生死を分ける重要かつ緊急な局面で起こっていることを考慮するならば,上記措置は慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価されるので,花子に対す る不法行為を構成するというべきである。

【コメント】
  • 法廷意見として期待権侵害に初めて言及した最高裁平成23年2月25日第二小法廷判決の枠組みに基づいて、期待権侵害による慰謝料を肯定した判決。
  • 慰謝料額を60万円とした。


【ソース】
判例タイムズ1354号192頁

HIV感染を無断で勤務先に通知された看護師が、両病院の開設者を提訴


  • 福岡県内の看護師が、2011年8月に大学病院でHIV陽性と診断された。
  • 検査の10数日後、勤務先の病院から要請を受けて休職となり、11月末に退職。
  • カルテ開示を求めたところ、大学病院から勤務先や他の病院に検査結果が伝達されていたことが判明した。
  • 2012年1月13日までに、福岡県内の地裁支部に約1100万円の賠償を求めて提訴。


【コメント】
以下の日本看護協会の声明でも言及されていますが、スタンダード・プリコーション(標準予防策)で感染が防止できる以上、休職は不要です。医療機関のみならず、一般の職場における感染者の人権を擁護するためにも、医学的な合理性を踏まえた冷静な判断が必要です。

■日本看護協会:HIVに感染した看護職の人権を守りましょう

【ソース】
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/281837

カンガルーケア中の心肺停止で脳障害、松山地裁に提訴


  • 2011年に今治市内の私立医療機関で出生した新生児が、カンガルーケア中に心肺停止となり、脳障害を負ったことについて、2011年1月18日までに、両親らが松山地裁に提訴した。
  • 訴状では、十分な事前説明がないままカンガルーケアを開始し、約30分間両親と新生児だけの状態となり、助産師が戻った際に新生児は一時心肺停止に至ったとのこと。

【コメント】
名古屋大学医学部附属病院における類似の事故では、大学が事故の事実経過と再発防止策を公表しています。
名古屋大学医学部附属病院:カンガルーケア時に発生した事故について

カンガルーケアを実施するのであれば、次のような要件が不可欠であると思います。
1)児が、カンガルーケアの実施を許容できる身体状況であるを医師が確認していること
2)ケア実施中に医療従事者が経過をずっと観察できる体制が確保されていること
3)カンガルーケアの実施中に心肺停止となって重度後遺症等が生じた事例があるといったリスク説明が事前に十分なされた上でなお両親が実施を希望していること  等


 【ソース】
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-01-19_28705/
http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20120119/news20120119730.html

栃木県医事厚生課が平成23年度上半期の医療事故のまとめを公表


  • 栃木県医事厚生課が平成23年度上半期(4月~9月)に県立3病院で起きた医療事故のまとめを公表。
  • レベル3bが10件、レベル4bが1件(がんセンター)。
  • まとめの公表ははじめて。

【コメント】
公表を始めたことは良いことです。
ただ、レベル4bの事案の概要は、県の資料には説明がありませんでした。重大事故の情報を共有し、他の施設での再発防止に生かすには、もう少し工夫が必要になるものと感じました。
また、医師による報告がなかなか集まらないという実情がありますので、報告者の職種毎の件数を事故レベル毎に集計すると、報告の「質」の評価も可能になるはずです。

 【ソース】
栃木県/医療事故等包括公表
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120118-00000067-san-l09

高血圧症治療薬アルマール、名称変更へ

  • 2011年1月10日、大日本住友製薬が高血圧症治療薬「アルマール錠5/錠10」の販売名の変更を厚労省に申請した。
  • 新規名称は、『アロチノロール塩酸塩錠5mg「DSP」/錠10mg「DSP」』。
  • サノフィ・アベンティスの糖尿病治療薬アマリールとの取り違え防止のため。

【コメント】
以前から、アルマール・アマリールは、混同しやすい名称の代表格とされてきました。
ようやくとの感は強いものの、正しい対応と言えます。

【ソース】