【ソース】
平成24年02月24日最高裁判所第二小法廷判決
○要旨引用
労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって,労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。
そうすると,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。
したがって、労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである。
【コメント】
医療過誤訴訟においても、不法行為構成と診療契約上の債務不履行構成の二通りがあり得ます。
上記判例は労災事故に関するものではありますが、医療過誤訴訟を債務不履行構成に基づいて提起する場合(不法行為構成では消滅時効にかかる場合等)の弁護士費用の扱いについても、あてはまる部分が大きいものと考えられます。
ただし、医療過誤事件における患者側の主張立証責任の重さに照らした場合、債務不履行構成の下でも、不法行為構成の場合と同等の主張立証責任を負う結果となることが妥当なのかどうかについては、患者代理人の側から絶えず問題提起をしていく必要があると考えています。
【参考判例】
昭和44年2月27日最高裁判所第一小法廷判決
(根抵当権の不存在につき少なくとも過失により競売の申立をしたことは不法行為を構成するとして損害賠償を請求した事例)
○要旨引用
思うに、わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の
余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者
に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。
従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利
を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一
般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。
そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行
を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、
右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。
2012/03/29
2012/03/27
【判決レビュー】病院内浴室で熱傷を負った高齢女性入院患者が死亡した事例(千葉地裁平成23年10月14日判決)
【ソース】
平成21年(ワ)第1651号 損害賠償請求事件(医療)
【コメント】
こうした痛ましい事故の再発を防止するには、患者が利用する設備に、こうした熱湯の出る設備があること自体を改善する必要があると考えられます。本欄をお読みになった医療関係者の方には、自院内の浴室の給湯栓の状況をご確認いただければと思います。
【要点】
- 両変形性膝関節症の手術目的で入院した当時79歳の女性が、平成20年11月6日(手術前日)午後2時に入浴のため浴室に入ったところ、約40分後に浴槽内で全身熱傷の状態で発見された。翌日死亡。
- 浴室に入った時点で浴槽は空であった。発見時、給湯栓から55-56℃の湯が出たままとなっていた。 浴槽の栓は閉まっていなかったが、患者の体が排水口をふさいでおり、20-30cmの深さで湯が溜まっていた。
- 患者に認知症はなく、判断力に問題はなかったが、患者は給湯栓を開くと55-56℃の湯が出ることを知らず、浴室まで付き添った看護師もそのことを説明していなかった。
- 裁判所は、①給湯給水設備の使用方法及び熱傷を負うおそれのある熱湯が出ることを説明しなかった点、②浴室に入ってから30分が経過した後も安全確認を行わなかった点について病院の過失を認定した。
- 被告は、午後3時38分の血液検査でAST、LDH、CPKの上昇が、午後6時5分にはトロポニンTの上昇が認められたこと等を理由として、急性心筋梗塞を発症して意識喪失に至って転倒し、その結果熱傷を負ったと主張したが、裁判所は、上記過失と熱傷による患者の死亡の因果関係を肯定した。
- 被告は、患者の心筋梗塞発症の結果への寄与による過失相殺類推適用を主張したが、裁判所は採用せず。
- 裁判所は、病院に対し、1925万円と遅延損害金の支払いを命令。内訳は慰謝料1600万円(近親者慰謝料含む)、葬儀費150万円、弁護士費用175万円。
【コメント】
こうした痛ましい事故の再発を防止するには、患者が利用する設備に、こうした熱湯の出る設備があること自体を改善する必要があると考えられます。本欄をお読みになった医療関係者の方には、自院内の浴室の給湯栓の状況をご確認いただければと思います。
2012/02/20
【判決報道】脳動脈瘤コイル塞栓術と開頭クリッピング術の比較説明の不備とコイル塞栓術の手技上の過誤を認定。
【ソース】
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012021790201603.html
http://www.asahi.com/national/update/0217/NGY201202170030.html
http://www.nikkei.com/news/local/article/g=96958A9C93819496E3E5E2E2838DE3E5E2E0E0E2E3E0919CEAE2E2E2;n=9694E3E4E3E0E0E2E2EBE0E0E4E4
http://mainichi.jp/life/health/medical/news/20120218k0000m040101000c.html
【要点】
【実施した医療行為の目的】
動脈瘤に対して、開頭手術による加療が困難と判断されたため、ステント併用による脳動脈瘤コイル塞栓術(血管内治療)を実施した。
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012021790201603.html
http://www.asahi.com/national/update/0217/NGY201202170030.html
http://www.nikkei.com/news/local/article/g=96958A9C93819496E3E5E2E2838DE3E5E2E0E0E2E3E0919CEAE2E2E2;n=9694E3E4E3E0E0E2E2EBE0E0E4E4
http://mainichi.jp/life/health/medical/news/20120218k0000m040101000c.html
【要点】
- 名古屋地裁平成24年2月17日判決(堀内照美裁判長)。
- 藤田保健衛生大学病院開設者に対し、約1億7000万円の賠償を命令。
- 2006年4月、50代女性に脳動脈瘤があることが判明。
- 2006年8月に脳動脈瘤コイル塞栓術を実施した際に、脳動脈瘤から出血。
- くも膜下出血、脳梗塞により左半身麻痺が残存。夫が退職して介護を担当。
- 開頭術の方がリスクが少ないことの説明を欠いたと認定。説明を尽くしていれば開頭術を選択したと認定。
- カテーテル操作の手技上の過誤も認定。
【報道上の不明点等】
- 判決原文未入手。2012/02/20現在最高裁サイトに掲載なし。
- 瘤の大きさ、部位。
- 脳動脈瘤損傷に至る機序の詳細。
【コメント】
日本医療機能評価機構の報告事例検索サイトにおいて、「事故事例報告」「脳動脈瘤」「塞栓術」で検索をかけたところ、8事例がヒットしました。
そのうち、術中に瘤の破裂や虚血性合併症を来した事例について、事案の概要を以下に転載しておきます(下線は当ブログ筆者によるもの)。
個別事例の個々の分析だけではなく、同種事例を集積し、それらを比較検討することによって、原因分析が促進されるはずです。
実際に産科医療保障制度においてはそういった総合的なレビューが行われています。未破裂脳動脈瘤治療中の重大有害事象についても、そうした網羅的に集積された事例に対する総合的なレビューがなされることを期待したいです。
- 事例ID ADC1F60E790FFE663
【実施した医療行為の目的】
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対して、瘤内塞栓術+母血管閉塞術 水頭症に対して脳室ドレナージ術 重症くも膜下出血に対してバルビツレート療法
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対して、瘤内塞栓術+母血管閉塞術 水頭症に対して脳室ドレナージ術 重症くも膜下出血に対してバルビツレート療法
【事故の内容】
右椎骨動脈瘤に対し、全身麻酔下にコイル塞栓術を施行すべく、動脈瘤内にマイクロカテーテルを誘導していた。その際にカテーテルが瘤内で跳ねるような挙動を示し、瘤外(血管外)に逸脱、直後の造影で造影剤の漏出を認め、動脈瘤の破裂及びくも膜下出血を来したと判断した。
右椎骨動脈瘤に対し、全身麻酔下にコイル塞栓術を施行すべく、動脈瘤内にマイクロカテーテルを誘導していた。その際にカテーテルが瘤内で跳ねるような挙動を示し、瘤外(血管外)に逸脱、直後の造影で造影剤の漏出を認め、動脈瘤の破裂及びくも膜下出血を来したと判断した。
【事故の背景要因の概要】
不明
不明
【改善策】
不明
不明
- 事例ID AA2E40D103057EAE1
【実施した医療行為の目的】
未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術
【事故の内容】
前交通動脈未破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術中。5本目のコイルを挿入中に、瘤内に留置してあったマイクロカテーテルが移動 し、瘤壁を穿孔、くも膜下出血の状態となった。止血のためへパリンをリバース、薬剤による降圧を行い、自然に止血されたことを確認。この時点で頭痛、嘔気 を訴えるものの、患者の神経症状に変化なし。より完全な止血を目指して、全身状態の安定化のための全身麻酔の導入を行い、塞栓術を続行。良好な塞栓が得ら れたこと、再出血をしていないことを確認し、塞栓術を終了。くも膜下出血の排出のための髄液腰椎ドレナージ追加。血圧管理のための全身麻酔2日間の継続を 行った。意識清明、神経症状の悪化なし。脳血管れん縮の予防治療を行った。
【事故の背景要因の概要】
カテーテルが不安定で容易に瘤外に脱出しやすい状態であったため、通常よりカテーテルを瘤内にやや強めに押し込んだことで、カテーテルが予想以上に移動したと考えられる。
【改善策】
常にカテーテルにかかる圧力を確認しながら、最新の注意でカテーテル操作を行うように心がける。 合併症発生の術前説明を十分に行う。
未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術
【事故の内容】
前交通動脈未破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術中。5本目のコイルを挿入中に、瘤内に留置してあったマイクロカテーテルが移動 し、瘤壁を穿孔、くも膜下出血の状態となった。止血のためへパリンをリバース、薬剤による降圧を行い、自然に止血されたことを確認。この時点で頭痛、嘔気 を訴えるものの、患者の神経症状に変化なし。より完全な止血を目指して、全身状態の安定化のための全身麻酔の導入を行い、塞栓術を続行。良好な塞栓が得ら れたこと、再出血をしていないことを確認し、塞栓術を終了。くも膜下出血の排出のための髄液腰椎ドレナージ追加。血圧管理のための全身麻酔2日間の継続を 行った。意識清明、神経症状の悪化なし。脳血管れん縮の予防治療を行った。
【事故の背景要因の概要】
カテーテルが不安定で容易に瘤外に脱出しやすい状態であったため、通常よりカテーテルを瘤内にやや強めに押し込んだことで、カテーテルが予想以上に移動したと考えられる。
【改善策】
常にカテーテルにかかる圧力を確認しながら、最新の注意でカテーテル操作を行うように心がける。 合併症発生の術前説明を十分に行う。
- 事例ID AB0E216F5B38CB961
動脈瘤に対して、開頭手術による加療が困難と判断されたため、ステント併用による脳動脈瘤コイル塞栓術(血管内治療)を実施した。
【事故の内容】
全身麻酔のもと手術を施行。血管の蛇行が強く、カテーテルの誘導やステントの誘導に難渋した。最終的に、ステントを病変部ま で誘導することができず、また、更なる治療の継続は血管穿孔などの致死的な合併症をきたす可能性が高いと判断されたため、手術を断念せざるを得なかった。 麻酔覚醒後に、右顔面麻痺、右上下肢麻痺が出現していることが分かった。症状発見後直ちに頭部CTを施行した。その結果,出血性病変は否定されたため,虚血性合併症が生じたものと判断した。
全身麻酔のもと手術を施行。血管の蛇行が強く、カテーテルの誘導やステントの誘導に難渋した。最終的に、ステントを病変部ま で誘導することができず、また、更なる治療の継続は血管穿孔などの致死的な合併症をきたす可能性が高いと判断されたため、手術を断念せざるを得なかった。 麻酔覚醒後に、右顔面麻痺、右上下肢麻痺が出現していることが分かった。症状発見後直ちに頭部CTを施行した。その結果,出血性病変は否定されたため,虚血性合併症が生じたものと判断した。
【事故の背景要因の概要】
詳細は不明であるが術後要因の検討を行い、現段階ではカテーテルの複数本の同時使用によって、脳血流の低下が長時間にわたり起こったためと推察している。
詳細は不明であるが術後要因の検討を行い、現段階ではカテーテルの複数本の同時使用によって、脳血流の低下が長時間にわたり起こったためと推察している。
【改善策】
【事故の内容】
右椎骨動脈瘤に対し、全身麻酔下でコイル塞栓術治療時に汎用しているマイクロカテーテルを用いて同治療を施行。動脈瘤内にマ イクロカテーテルを誘導していた。その際にカテーテルが瘤内で跳ねるような挙動を示し、瘤外(血管外)に逸脱。直後の造影で、造影剤の漏出を認め、動脈瘤 の破裂及びくも膜下出血を来したと判断した。
【事故の内容】
左内頸動脈未破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術中、動脈瘤からの出血あり。脆弱な動脈瘤壁の破裂によるものと考えられた。出血 に対する止血処置(へパリンのリバース、バルーンによる閉塞、コイルの追加充填)にて止血を得たが、この動脈瘤に対する根治術が必要と考え、緊急手術施行 (開頭外減圧術)。
術式の検討。
- 事例ID AA99A278B8171F3B8
【実施した医療行為の目的】
右椎骨動脈瘤に対するコイル塞栓術(全身麻酔下)
右椎骨動脈瘤に対するコイル塞栓術(全身麻酔下)
【事故の内容】
右椎骨動脈瘤に対し、全身麻酔下でコイル塞栓術治療時に汎用しているマイクロカテーテルを用いて同治療を施行。動脈瘤内にマ イクロカテーテルを誘導していた。その際にカテーテルが瘤内で跳ねるような挙動を示し、瘤外(血管外)に逸脱。直後の造影で、造影剤の漏出を認め、動脈瘤 の破裂及びくも膜下出血を来したと判断した。
【事故の背景要因の概要】
カテーテルを動脈瘤内に誘導中に動脈瘤内での跳ね。
カテーテルを動脈瘤内に誘導中に動脈瘤内での跳ね。
【改善策】
不可抗力的な事例である。今後同治療を行う際、綿密な計画、慎重な操作をこれまでと同様に行う。
不可抗力的な事例である。今後同治療を行う際、綿密な計画、慎重な操作をこれまでと同様に行う。
- 事例ID AA577AF694784376C
【実施した医療行為の目的】
未破裂脳動脈瘤に対する根治術
未破裂脳動脈瘤に対する根治術
【事故の内容】
左内頸動脈未破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術中、動脈瘤からの出血あり。脆弱な動脈瘤壁の破裂によるものと考えられた。出血 に対する止血処置(へパリンのリバース、バルーンによる閉塞、コイルの追加充填)にて止血を得たが、この動脈瘤に対する根治術が必要と考え、緊急手術施行 (開頭外減圧術)。
【事故の背景要因の概要】
推測だが、脳動脈瘤の壁が非常に脆弱だった可能性がある。
推測だが、脳動脈瘤の壁が非常に脆弱だった可能性がある。
【改善策】
予測不能な術中破裂であった。
予測不能な術中破裂であった。
2012/02/01
【判決報道】子宮外妊娠で死亡、受診指示上の過失を認定
【要約】
したがって、被告●●は、不法行為に基づき、原告に生じた本件損害を賠償する責任を負う。
- 2007年10月3日に当時36歳の女性が妊娠の疑いで岡崎市民病院を受診。
- 患者帰宅後に出た検査結果から、医師が子宮外妊娠の可能性に気がついた。
- 10月4日朝、女性から腹痛を訴える電話あり、11:00受診予定となった。
- 女性が来院せず、病院から自宅に複数回の電話。13:00につながり腹痛で動けないと言われ、救急車要請。
- 5日後に出血性ショックで死亡。
- 2012年1月27日、名古屋地裁が病院側に約6700万円の賠償を命令。
- 腹痛の訴えの電話があった時点で、子宮外妊娠の可能性が高いことや危険性を具体的に伝えて、できるだけ早く来院するよう勧めるべきだったと認定。
【ソース】
【不明点】
- 判決全文(2012/02/01現在裁判所サイトに掲載なし)
- 10月3日の患者帰宅後に出た「検査結果」の具体的内容(検査名、所見等)
【子宮外妊娠に関する類似裁判例】
東京地裁平成5年8月30日判決(判例時報1503号108頁)
- 平成元年7月16日、当時20代半ばの女性が腹痛を訴えて受診。最終月経は5月8日から14日間。内診実施、エコーで胎嚢写らず。夜間のため妊娠反応約検査は実施せず。
- 7月17日、痛み持続あり、再度受診。内診実施、血液検査と尿一般検査実施。
- 7月24日、3度目の受診。未だ生理なし。同日夜にショック状態、搬送先で開腹手術→左卵管間質部妊娠による卵管破裂と判明。
- 8月8日退院、8月18日まで通院。
- 判決は、7月17日及び7月24日に尿中hCG検査を実施すべきと認定。
- 激痛や死亡の危険にさらされたこと、いずれにせよ手術必要であったが早期診断により臍上部まで切開創が伸びることは回避されたと考えられること等を理由として、慰謝料200万円の支払を命令。
===以下、東京地裁平成5年8月30日判決から引用===
被告●●が、七月一七日の時点でhCG検査を実施しておれば高い確率で陽性反応を得ることができ、右陽性反応が得られた場合、前日実施した超音波検査の結果や不正性器出血、下腹部痛等の症状と合わせて、原告が子宮外妊娠であると強く疑い得たにもかかわらず、被告●●は、子宮外妊娠の検査に必要不可欠とされているhCG検査を実施しなかったばかりか、内診に異常がなく、不正性器出血もないと誤診したため、被告●●は、原告が子宮外妊娠であるとの疑いを持つことがなく、七月一七日の時点では骨盤腹膜炎と、また、同月二四日には、卵巣機能不全と誤診したものである。
そのため、右誤診がなければ、子宮外妊娠の疑いをもってなすべき処置、すなわち原告を入院させ、更に入念な検査(内視鏡による検査等)を実施し、診断が確定次第開腹して卵管を摘出することができたにもかかわらず、右処置を怠ったため、原告の卵管が破裂するに至ったものであると認めることができる。
したがって、被告●●は、不法行為に基づき、原告に生じた本件損害を賠償する責任を負う。
<中略>
前記認定事実によれば、原告は、被告●●の誤診の結果、長期間激しい下腹部痛に悩まされ、とりわけ七月二四日の午後一〇時ころ、卵管が破裂し卵管摘出手術が行われるまで下腹部の激痛に苦しみ、死亡する危険さえもあったこと、また、《証拠略》によれば、子宮外妊娠の確定診断があった場合の一般的な治療方法としては開腹手術によるしかないことが認められ、したがって、同被告の前記過失がなかったとしてもいずれにせよ右手術を実施する必要があったことが認められるものの、鑑定の結果によれば、本件と異なり、被告●●の誤診がなく子宮外妊娠で
あるとの確定診断があった上で開腹手術をする場合には、下腹部臓器の病変であることから、臍上部まで切開創が伸びることはほとんどないことが認められると
ころ、《証拠略》によれば、原告の腹部には下腹部から臍上部まで長さ約一二、三センチメートル(臍上部は数センチメートル)の手術痕が残ったことが認めら
れる。以上の事実を総合し、本件諸般の事情を考慮すると、原告に生じた精神的苦痛を慰謝すべき金額は合計二〇〇万円が相当であると認められる。
===以上引用===
【補足】2012/02/07
【補足】2012/02/07
- 2012年2月6日、岡崎市の柴田紘一市長は、本件について名古屋高裁に控訴する方針を明らかにした。
- http://mainichi.jp/area/aichi/news/20120207ddlk23040173000c.html
2012/01/20
横浜地裁が神奈川県に約7200万円の賠償を命令。県立病院の検査・治療懈怠で44歳男性が心原性ショックで死亡。
- 2007年11月24日朝、横浜市内の44歳男性が胸痛を主訴として神奈川県立循環器呼吸器病センターに救急搬送され、狭心症との診断で入院。CT検査なし。
- 11月25日朝、急性大動脈解離による心原性ショックで死亡。
- 遺族が約1億2300万円の賠償をもとめて横浜地裁に提訴。
- 2012年1月19日、横浜地裁が横浜市中区の県立病院を開設していた神奈川県に約7200万円の賠償を命令。
- 狭心症治療薬服用後も痛み消失がなく、急性大動脈解離と思われる所見があったと認定し、CT検査を実施しなかった過失を認定。
- 救命可能だったとして因果関係も肯定。
【ソース】
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1201200009/
http://mainichi.jp/area/kanagawa/news/20120120ddlk14040215000c.html
神奈川県立病院機構(2012/01/20現在本件に関する情報掲載なし)。
2012/01/19
羊水塞栓症によるDICの患者に対する輸血手配が30分程度遅延したことについて、期待権侵害を理由とする慰謝料を認めた事例
大阪地方裁判所平成20年(ワ)第7635号
平成23年7月25日第20民事部判決
【判示抜粋】
患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害の みを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである(最高裁 判所平成21年(受)第65号平成23年2月25日第二小法廷判決・判例時報2108号45頁参照)。
<中略>
前記4(2)〔ア〕の電話連絡の過誤により,輸血の緊急手配が少なくとも30分程度は遅れた点については,輸血の依頼をすれば輸血できる医 療体制が一応備わっている本件病院にとっては,本件病院医師がDICを疑って緊急の輸血手配が必要と判断した際には,薬局の開業時間内外を問わず,医師な いし看護師ら医療従事者において速やかに赤十字血液センター等の血液供給機関に電話連絡ができるように日頃から準備しておくことが,必要不可欠であり,か つ容易であって、基本的な義務と考えられる。
そして,前記4(2)で検討したように,当時の花子の病態にかんがみ,遅くとも19時30分ころの時点では輸 血を開始すべきであったのに対し,上記のように輸血の緊急手配が30分程度遅れることがなければ,赤十字血液センターから本件病院への血液到着は18時 50分ころとなり,30分程度は要するFFPの解凍を経ても,19時30分にはFFPの輸血から開始することが可能であったといってよい。
ところが,丁谷 医師が輸血手配を依頼した時刻には薬局が閉業していたとはいえ,一刻を争う緊急事態に電話連絡の過誤により30分も輸血の手配が遅れ,これによって輸血の 開始も本来あるべき時点から30分も遅れたことは,重過失ともいうべき著しく不適切な措置と評価せざるを得ない。したがって,当時,本件病院医師によって 弛緩出血によるDICを疑われ,可能な限り速やかに輸血されるという治療行為を受けることを期待できた花子は,本件病院医師らの著しく不適切な上記措置に より,そのような期待権を侵害されたものと認めるのが相当である。
併せて,本件における結果が花子の死亡という重大なものであり,上記不適切な措置が花子 の生死を分ける重要かつ緊急な局面で起こっていることを考慮するならば,上記措置は慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価されるので,花子に対す る不法行為を構成するというべきである。
【コメント】
【ソース】
判例タイムズ1354号192頁
平成23年7月25日第20民事部判決
【判示抜粋】
患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害の みを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである(最高裁 判所平成21年(受)第65号平成23年2月25日第二小法廷判決・判例時報2108号45頁参照)。
<中略>
前記4(2)〔ア〕の電話連絡の過誤により,輸血の緊急手配が少なくとも30分程度は遅れた点については,輸血の依頼をすれば輸血できる医 療体制が一応備わっている本件病院にとっては,本件病院医師がDICを疑って緊急の輸血手配が必要と判断した際には,薬局の開業時間内外を問わず,医師な いし看護師ら医療従事者において速やかに赤十字血液センター等の血液供給機関に電話連絡ができるように日頃から準備しておくことが,必要不可欠であり,か つ容易であって、基本的な義務と考えられる。
そして,前記4(2)で検討したように,当時の花子の病態にかんがみ,遅くとも19時30分ころの時点では輸 血を開始すべきであったのに対し,上記のように輸血の緊急手配が30分程度遅れることがなければ,赤十字血液センターから本件病院への血液到着は18時 50分ころとなり,30分程度は要するFFPの解凍を経ても,19時30分にはFFPの輸血から開始することが可能であったといってよい。
ところが,丁谷 医師が輸血手配を依頼した時刻には薬局が閉業していたとはいえ,一刻を争う緊急事態に電話連絡の過誤により30分も輸血の手配が遅れ,これによって輸血の 開始も本来あるべき時点から30分も遅れたことは,重過失ともいうべき著しく不適切な措置と評価せざるを得ない。したがって,当時,本件病院医師によって 弛緩出血によるDICを疑われ,可能な限り速やかに輸血されるという治療行為を受けることを期待できた花子は,本件病院医師らの著しく不適切な上記措置に より,そのような期待権を侵害されたものと認めるのが相当である。
併せて,本件における結果が花子の死亡という重大なものであり,上記不適切な措置が花子 の生死を分ける重要かつ緊急な局面で起こっていることを考慮するならば,上記措置は慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価されるので,花子に対す る不法行為を構成するというべきである。
【コメント】
- 法廷意見として期待権侵害に初めて言及した最高裁平成23年2月25日第二小法廷判決の枠組みに基づいて、期待権侵害による慰謝料を肯定した判決。
- 慰謝料額を60万円とした。
【ソース】
判例タイムズ1354号192頁
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